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「コケーッコッコッコッコ」
「いてっ」
しゃがんで飼育小屋の掃除をしていたら、鶏のチョボに頭を突かれた。僕は頭をさすりながら振り返る。
チョボは何事もなかったようにコココ……と鳴きながらその辺を歩き回っている。
離れたところから笑い声が聞こえる。校庭で女子たちがうさぎと戯れてる声だ。僕一人を残して、五人の女子たちがうさぎを抱きしめたり撫でたり、逃げたうさぎを追いかけたりしている。
あれから時は流れ、僕は小学生になった。あの河原での犬との出会いがきっかけで、僕は動物好きになった。
低学年の時は生き物係で、メダカやカブト虫の世話をしていて、高学年になるとうさぎと鶏の世話をする飼育係になることができる。僕は数多のジャンケン勝負に打ち勝って飼育係の座を手に入れた。
なのにクラスの女子からは非難轟々だった。ジャンケンに負けて泣き出した女子がいたからだ。
「ちょっと、泣いちゃったじゃん。可哀想だから代わってあげなよ」
「そんなこと言われても」
僕がジャンケンに勝ったことは紛れもない事実だし、やりたいことを譲らないといけない道理もない。
早くこの時間が終わらないかな。そう思って黙って立っていると、隣の席の麻美が手を挙げた。
「じゃあ私が代わるよ」
「本当? 麻美ちゃんありがとう!」
一件落着だ。そう思っていたのに、後から麻美に呼び出された
「山内が代わってあげないから私が代わる羽目になったじゃん。私だってやりたかったのに! アンタって本当、空気読めないよね!」
麻美はそう言い捨てると、泣きながら走り去っていった。
僕は、空気が読めない。人の心が分からない。何故彼女は泣いていたのか。僕の何が悪かったのか。
飼育係になってからも、女子はチョボのことを世話しようとはしなかった。うさぎと違って可愛くないから。トサカが脳みそみたいな形をしていて気持ち悪いから。
道徳の授業で命の価値は平等だと作文に書きながら、現実ではそれを実践しないのか、僕にはわからない。
どうして人間と動物が別で、その中でも差別をするのか。どうしてそれを、間違っていると知っていて正さないのか。僕には理解できない。僕だってチョボだって、生きているのに。
僕は苦しくなって、チョボを抱きしめた。チョボは温かくて、ふわふわしていて、独特の臭いがした。抱きしめていると少しだけ心が落ち着く。でもチョボは嫌そうに首をくねらせ、僕の耳を突いた。痛い。手を離すと、チョボはコココ……と鳴きながら辺りを歩き回った。
動物たちはいい。言葉を話さないし、その行動には裏表がない。
……何を考えているかは、人間と同じくらい、分からないんだけど。
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