タロ

　僕は学校の図書室で犬の図鑑を借りた。
　タロはパグに似ていたけどやっぱりパグではなくて雑種だと分かった。でも何とのミックスなのかは分からない。どれにも似ているようで、どれにも似ているように見える。
　お母さんが昔飼っていた犬種はなんだったんだろう。もしもタロが似ていたら、飼ってくれるかもしれない。
「お母さん、あのさ、昔飼ってた犬って犬種なんだったの？」
「うーん雑種じゃないかな。どうしたの、突然」
「橋の下に犬がいて、雑種なんだけど。家で飼えないかな」
「犬を飼うって大変なのよ。お母さん仕事あるし、散歩行けないし。健太だってまだ小さいでしょ」
「でも今ホームレスの人が餌やってて、菓子パンしかやってないの。このままだと死んじゃうよ」
「餌をあげてるんなら、その人たちが飼ってるってことでしょ。勝手に飼うなんてできないよ。それに、昔飼ってた犬が死んで悲しかったから、もう飼わないって決めたの。この話はおしまい」
　そう言ってお母さんは話を終わらせてしまった。
　僕は悲しい気持ちになった。
　お母さんは、タロを救う気がない。死んだ子の方が、大事だから。
　タロにだって、代わりはいないのに。