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一番古い子供の頃の記憶。
僕はお母さんと手を繋いで歩いていた。家の近くにある河原で、お母さんのお腹は大きくて、僕の手は小さかった。
道の反対側から犬がおじいさんを連れて歩いてきた。犬は僕の匂いを嗅ぐと、ベロンと僕のほっぺを舐めた。僕はその犬をギュッとして、そのままばいばいした。
初めて触れる犬は大きくて、ふわふわで、温かくて。僕は犬を飼ってみたくなった。
「おかあさん、犬飼いたい」
「ダメ。犬は飼わない」
「どうしてダメなの?」
「子供の頃、犬を飼ってたの。でも死んじゃった。その時お母さんまで死んじゃいそうなくらい悲しかったから、もう二度と飼わないことにしたの。かけがえのない子だから。代わりはいないの」
そう言って笑うお母さんはとても寂しそうで。思い出すと今でも悲しいんだなって分かって。僕はもう二度と犬を飼いたいなんて言えなかった。
そのあと夜になって、お母さんは病院に行った。僕は病院に連れて行ってもらえなくて、おばあちゃんと一緒に家に居た。僕はいつまでもグズグズぐずって、なかなか寝られなかった。
朝になって、おばあちゃんに連れられて病院に行ったら、弟が産まれていた。
産まれたての弟は小さくて、フニャフニャで、温かくて。僕は嬉しいような、悲しいような気持ちになった。
かけがえのない子だったから、代わりの子を迎えない。犬を飼いたいと言った時、お母さんはそう言っていた。
だから、弟を産んだということは。代わりの子を迎えたということは。
お母さんにとって僕は、かけがえのない子じゃない。
そう思うと、すごくすごく悲しくて。僕は弟に張り合うように、とてもとても大きな声で泣いた。
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