夫婦と恋愛の両立は成り立つ?

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「夫婦と恋愛って両立して成り立つもんなのかな?」 そんな言葉がツルリと口から飛び出たのは、親友と二人、普段は滅多に観ない恋愛映画を冷やかし半分で動画配信サービスをぼんやりと観ていた安心からか。 「さあ、ねぇ。わたしはどっちも成り立つ人もいるし、ムリな人もいる。ま、アンタが今悩んでんのは知ってるけど、それはその人次第……じゃないの、結局」 相変わらず彼女は竹で割ったようにスッパリと確信をついてくる。彼女のそういうところが好きだし、また彼女自身も私がそういうところが好きなのを知っていて他人には普段隠している部分を見せてくれる。 たまに私も彼女も同性愛者かあるいはどちらかが異性だったら、きっと幸せに満ちた人生なんだろうな。 などと思うのはきっと、数ヶ月前から私がしばらく働けない病が発覚してから変化した夫の姿に誰にも告げていないけれど、傷付いているからだろう。 『女は男の扶養に入れていいよな。お前は子供も居ないし、ラクなもんだよな』 はー、今日も残業疲れた。と言って以前は私にお前などと言わなかった彼が、ほんの少し油断していたのだろう。私の目の前で脱いだ背広やネクタイから微かに漂う甘い香りに、浮気とまではいかなくても彼の中では恋愛対象だった頃の私が消えていると主張しているように見えた。 私は仕事にやり甲斐を感じていたし、もう少し貯金をしたら妊活もしよう。もしできなかったとしても二人で支え合っていつまでも恋人だった頃のような夫婦でいよう。 そんな話し合いを結婚を決める前から、夫婦の証の指輪を左手に着ける前から互いに誓いあっていたのに……。 蓋を開ければ彼は、いつの間にか私よりも年収が下がっていて、いつしか私の給与をアテにして生活をしている男になっていた。 私は夫がそんな男になっているのを、横目で見つつ目の前の仕事や慣れない家事に精一杯で、今一緒に居てくれる親友ともメッセージのやり取りだけで精一杯だった。 そんなある日に、心身の限界がきたのだろう。私は、会社を辞めざるを得ない病を得て、ある程度病状が落ち着くまでは、家に居るようにと医師から指示があった。 が、彼の心無い言葉に私は病を悪化させる一途で、それに気付いて助けてくれたのが今、隣で一緒に最近流行っているという私的にはどこがいいのかもうよくわからない恋愛映画を観たり、仲良くなったキッカケの趣味の話をしたりとまるでシェルターのように私を包んでくれる親友だった。 「あのさ、ムリにあのクソ野郎のとこには帰んなくていいけどさ、自分が納得して帰りたくなったらいつでも帰っていいからね。わたしもアンタにずっと居て貰えたら誰も居ない家に帰らなくていいって安心感あるけど、それはわたしの勝手」 「……うん」 「そんで、離婚したいって腹括ったらわたしは全力で応援するし、そうじゃなくてあのクソ野郎に立ち向かってケンカして家庭を作ってくんだって腹括ってくんならそれはそれでわたしはあのクソ野郎見張ってたあげる」 「いつも思うんだけど、なんでいっつも私が欲しい言葉で甘やかしてくれるの?」 あれほど話し合って手に手を取り合って頑張ろうと約束した彼にはこんな言葉を言われたことがなかったから、不思議だった。 「なんでって、わたしはアンタの親友で多分、前世夫婦だったんだよきっと!」 前に通りすがりの占いの人にも言われたから絶対そう!彼女は力強く言い切るから、久しぶりに大声を出して笑ってしまった。 病を得てから、自分はどことなく社会の役に立てない。夫を支えられない自分を卑下していたのに、彼からトドメを刺された気持ちが悪化させているんだ。そうわかっていたのに、自分では抜け出せなかったのに、彼女のスッパリとした物言いとは裏腹なロマンチストな考え方が変わらなくて私は安心した。 「ま、でも今回は残念だけどあのクソ野郎に夫婦の座は譲ってやるわ……なんか、わたしがアンタの電話とかメッセージ着拒させたの知ってどっかからかわたしのストーカーかよってくらいメッセージと着信履歴残ってるから」 あー、さっきの映画のヒーローより粘着質~。愛想尽かされてフラれろ~。と夫への呪詛めいた言葉を吐きつつ、彼女はノロノロと玄関へと向かう。 気になって雛鳥のように彼女の後を着いていくと、彼女の開けたドアには真っ赤なバラが立っていた。 「……おい、こら。何迷惑なもん持って押し掛けてきてんだよ。離婚されるとか微塵も感じないとか」 「いや、離婚を言い渡されてももう一回プロポーズするために持って来たんです。僕には妻は貴女の親友しか有り得ません、たとえフラれても法に引っ掛からない限りは何度でも振り向かす努力を誓いますし、いくら疲れていたとはいえ、妻を、女性を見下すような発言をしていたことを謝罪させてください」 だってさ、どうする?と些か呆れた感情の混じる視線をこちらへ向ける彼女とある意味生涯ストーカー宣言もどきをしている夫に、なるほどまさしく彼女の言う通り、夫婦と恋愛の両立が成り立つのかは、二人次第……が正解なんだろうと納得し、仕方ないとため息をついて許したフリをして、帰ってからまたタップリと話をしよう。 改めて私と夫にとっての最良の両立を。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加