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犬上の一族が代々守ってきた「犬がみけ」の掟。
犬上の一族に属するものが犬を飼う場合、名前がミケであるか、毛色が三毛の犬を飼うこと。これには犬上の家を興した初代犬上浩三郎が商売に苦しんだ時、枕元に立った神にみけの犬を飼えと言われ、その通りにしたら商売がたちまちのうちに上向いたとか、山歩きの途中に崖から落ちた三代目犬上浩之進を助けたのが三色、すなわち三毛の犬だったとか様々ないわれがある。
僕の言葉に、泣きそうな声を上げたのは父さんだ。
「浩司……頼むからいい加減にしてくれ……」
「いい加減にしてほしいのはこっちだよ、父さん。今時……いや、今時に限らずこんな掟ばかばかしいと思わないの?」
「いや、それは……。だからうち、犬飼ってないし」
「貴様ら!! 親子そろって掟を馬鹿にするというのか!!」
祖父の怒鳴り声が部屋に響き渡ったが、僕はもう取り合う気持ちすらなかった。
一族を離れる。
その言葉を言うまでは怖かったが、一度口にしてしまえば気持ちは瞬く間に楽になった。
ソファから立ち上がった僕は、まだ何か言っている二人に背を向けて、悠々とその部屋を後にしたのだった。
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