犬上の掟

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 あれは朝から薄曇りの日だった。  夕方に近づくにつれて天気は悪化し、日暮れごろから雨が降り始めた。 「浩司様、社長がお呼びです」  秘書の前田さんに言われた僕の中は、その時点で嫌な予感がした。  とはいえ無視するわけにも行かず、僕は仕事を中断して社長室へと向かった。 「兄さん、どうやら呼ばれたようだね」  その途中、廊下の壁にもたれかかって立っている弟、大樹の姿があった。  挑戦的な笑みからして、何か事情を知っているのだろう。  「どってことないさ」  僕はそれだけ言って彼の前を通り過ぎた。 「その態度がいつまでもつか楽しみだよ、兄さん」  背中に飛んでくる大樹の声。彼はいつも僕を蹴落とそうと躍起になっている。それが帰って、自分の評判を貶める可能性に彼は早く気付くべきだろう。  どっしりとした風格を漂わせる木製のドアをノックすると、中から「入れ」と反応が返ってきた。  僕は一つ息を吐いてから、金属製のノブに手をかけた。 「失礼します」  中に入り、一礼してドアを閉める。
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