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わたしが中学生に上がった頃には、近所の犬や猫はロボットに入れ替わっていた。
十年ぐらい前、国の偉い人は「ペット禁止法」という法律を作って、本物の犬や猫を新しく家で飼うことを禁止にした。ペットを捨てたりいじめたりする人が増えたからだって、あの時お母さんは説明してくれた。
法律ができたばかりの頃はみんな反対してたけど、流石に十年も経っちゃうと慣れちゃうようだ。犬や猫の代わりにペット型のロボットが流行して、本物の動物に目を向ける人は段々と少なくなってしまった。
住宅街に入れば、いつものように機械の犬が飼い主の横を歩いている。最近は毛並みまで再現した機種まで出来たらしい。歩道を四本足でトコトコと進む姿はまさに本物だけど、ところどころで見える足の動きのぎこちなさはやっぱりロボットだ。
何だか変な感覚だなぁ、とわたしは今日も学校の帰路、夕焼け空を見上げながら溜息をつく。つい数年前まで目新しかった木の形も空気清浄機も、人工知能も、今では当たり前のように生活に浸透している。しかもその事実を誰も指摘しないのだ。
もう目に見えているものの何が本物か、判らなくなっちゃうな。
心の中で呟き、足元の小石を蹴る。小さな物体は軽やかにアスファルトの道を跳ねて、すぐ目の前の木へと転がっていく。
黒く、深い影を落とす根本。そこにいつもはないはずの段ボール箱があることに、わたしは遅れて気が付いた。
「くうん、くうん……」
不思議に思い歩み寄ってみると、中では栗毛の子犬が体を丸くしていた。寂しそうで、か細い声。つぶらで潤った瞳が、何かに訴えかけるように真っ直ぐとこちらに向いていた。
赤い首輪と、そこに付けられた金属製の丸いタグが目に入り確信した。
捨て犬ならぬ捨てロボット犬、か。
結局、人って何も成長しない生き物なんだな。ごみ処理場とかに廃棄せず生きたまま放置した、っていうのがせめてもの情けのつもりだろうか。
「ごめんね。うちのお父さん、ロボット犬が大の苦手なんだ」
生物学者というのも相まって、機械特有の不気味な動きが気に障るらしい。
「代わりにと言ったらあれだけど……」
そう言いながらわたしは手提げ鞄を漁り、中から充電器とACアダプタを一本取り出す。
「いる? これ使えるのか判らないけど」
すると子犬はむくっと身体を起こし、不思議そうに小首を傾げた。
かと思うとひくひくさせた鼻を鞄の方に向けて、一瞬の空白を挟んで一目散に飛びかかってくる。「わっ」と小さな悲鳴を上げたのもお構いなしに夢中で鞄の中を物色し、やがて橙色で棒状の何かを咥えながら顔を上げた。
包装された魚肉ソーセージ──昼食の余りだった。
「……どろぼうめ」
無邪気に尻尾を振る子犬を見て、わたしは思わず吹き出してしまう。最近のロボット犬はどうやら人間の食べ物も食べれるらしい。
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