0人が本棚に入れています
本棚に追加
人の世界は、いろんなものが紛れている。
ベンチの脇の扉が開いた。ゴマ塩頭のご主人がひょっこり現れた。
「やっぱりここにいたか」
ニコニコ笑って、隣に座った。そして僕の頭から背中をゆっくり撫でる。
「拾った時から変わらないねえ、お前さん。ああ、ああ、いいよ、いいよ、そのままで」
ご主人の手が、耳の後ろをくすぐった。
僕はついついその気持ちよさに、目を閉じそうになる。
「毎日そうやって人を眺めているといい。ついでに店番してくれりゃあ、十分だ。なあ、ポチ」
「ワンっ!」
僕は大きく返事をした。
ポチという安易な名前はちょっと不満だが、地球の、人間界に紛れ込むには、いろいろ無難な方がいいということも知っている。
しっぽのアンテナをこっそり立てた。
今日の収穫は、あの金髪と黒髪の二人組の少女だ。人が知らない、人以外の生き物が、まだまだ地球にいるようだ。
アンテナから電波を発し、何万光年か先で待機する仲間に伝える。業務完了。
犬に擬態した地球外生物である僕を、ご主人はなにも気づかず撫で続ける。
僕は通信を終えたしっぽを、そっと垂らした。
(ああ)
思わずため息が出た。
このご主人の手の気持ちよさを知ってしまったら、犬で居続けたいと思っても仕方ないよな。
賢そうな目をした犬が、じっと人を見ていたら、しっぽを注意深く見るといい。
時々、先っぽだけがピッと立つようなら、その犬は、犬ではないかもしれないよ。
最初のコメントを投稿しよう!