人間観察

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 人の世界は、いろんなものが紛れている。  ベンチの脇の扉が開いた。ゴマ塩頭のご主人がひょっこり現れた。 「やっぱりここにいたか」  ニコニコ笑って、隣に座った。そして僕の頭から背中をゆっくり撫でる。 「拾った時から変わらないねえ、お前さん。ああ、ああ、いいよ、いいよ、そのままで」  ご主人の手が、耳の後ろをくすぐった。  僕はついついその気持ちよさに、目を閉じそうになる。 「毎日そうやって人を眺めているといい。ついでに店番してくれりゃあ、十分だ。なあ、ポチ」 「ワンっ!」  僕は大きく返事をした。  ポチという安易な名前はちょっと不満だが、地球の、人間界に紛れ込むには、いろいろ無難な方がいいということも知っている。  しっぽのアンテナをこっそり立てた。  今日の収穫は、あの金髪と黒髪の二人組の少女だ。人が知らない、人以外の生き物が、まだまだ地球にいるようだ。  アンテナから電波を発し、何万光年か先で待機する仲間に伝える。業務完了。  犬に擬態した地球外生物である僕を、ご主人はなにも気づかず撫で続ける。  僕は通信を終えたしっぽを、そっと垂らした。 (ああ)  思わずため息が出た。  このご主人の手の気持ちよさを知ってしまったら、犬で居続けたいと思っても仕方ないよな。  賢そうな目をした犬が、じっと人を見ていたら、しっぽを注意深く見るといい。  時々、先っぽだけがピッと立つようなら、その犬は、犬ではないかもしれないよ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加