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すると、偶然、少しだけ梓がこちらを見たのだ。
私はハッとして、でも大きな声は出せないし、手を大きく振ることも慎まなければいけない場所だ。
梓は少し疲れた顔だったけれど相変わらず綺麗な顔立ちだと思った。
一瞬だから私のことは分からないだろうと思った。
無理もないよ。
でも見つけてくれた。
小さく手をあげて「ありがとう…また、連絡します」と口の形で言っているのがわかった。
私は頭を下げたのと同時に涙が溢れてきて慌てて拭いた。
式は進み、お焼香の順番がきた。
梓は、隣のお姑さんの手を握りながらご主人の遺影をずっと見つめていた。
祭壇には、ご主人の少し若い頃の微笑んだお顔があった。
とても良いお顔をしていた。
忌中払いの物を少し食べて行くのが礼儀なのでお寿司を頂いて斎場をあとにした。
帰る車中、何にも考えたくなくて、ユーミンのアルバムをボリュームを上げて聴きながら、大声で歌いながら、そしていつの間にか泣きながら運転していた。
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