太郎のお伊勢参り

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「うわあ!」  振り向くと、籠を背負った若い娘がいた。感極まっていた竹朗は全く気付くことができず、あわやぶつかるところだった。   「あら、どうなさったの? 涙をながして」 「あ、いや、すんません、俺ぁ……」  何といったらいいかと思ったところで、遠くから男の声がした。 「おおい! りよ! こてつだ、こてつが帰ってきたぞォ!」 「……うそ……」  娘は抱えていた一束の枯れ枝を放りだして走り出した。あの家の娘だ。  娘のほうへ、太郎もまた走り寄ってくる。 「おかえり! おかえり、こてつ。……おまえ、よくぞ無事に帰って来てくれたねぇ」 (そうか、おまえ、こてつっていうのか。良い名だ。それにこんなにいいお父っつあんと娘さんもいてよ)  娘は汚れるのもかまわずに太郎、もとい、こてつを撫でまわす。こてつは目を細め、されるがままだ。  ここが去り時と後ずさると、気配を察したか、こてつが竹朗を見た。  じゃあな。水入らずゆっくり休めよ、と目配せて、今度こそ向きを変えると、こてつはりよの腕をすり抜けて駆け出した。 「こてつ?!」  別れのあいさつでもしてくれるのかと思いきや、こてつは大口を開けて竹朗にとびかかって来た。  がぶり。 「うぎゃあああああ! お、おまえ、何すんだ、こら!」 「こてつ! なんてことを! やだ、御免なさい!」  こてつは竹朗の手に噛みついた。
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