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田植えを前に、おとっつあんが足を悪くしたらしい。りよは一人で畑仕事をするほかなかった。
不憫に思った集落のみんながお伊勢参りを提案した。しかし、これからまさに忙しくなる時期誰が代表でお参りに行くかでひと悶着あったという。そんな時、誰かが『おかげ犬』の話を聞きつけた。そして白羽の矢が立ったのが、こてつだったのだ。
「いや……ほんとうに、なんもだ。俺と会ったのは二見浦、お伊勢さんのおひざもとだ。こてつは一人でだってやれるのを、俺が勝手に……」
「勝手に?」
「ああ。俺が勝手に、自分がやり遂げられなかったお伊勢参りを、こいつに託したのさ」
「でも、ずっと見守って下さったんでしょう?」
「本当に見守りだ。俺は何もかも中途半端で、なんにもやり遂げることができない男さ。わき目もふれずに進むこてつを見て、うらやましくてな。やった気になってる情けないだけのやつだ」
「何言ってるんだい。こてつはちゃあんとお神札を持ち帰った。二見浦でお清めしてさ、下宮、内宮とお参りしたんだろう? あんた、こてつと一緒にちゃんとお参りしてるじゃねぇか」
竹朗は思い出した。
行儀よく伏せる太郎を厳かな気持ちで見つめ、一緒に手を合わせたっけ。言われてみればそうだ。
「はは。俺もお伊勢参り、してきたのか! そうか。……俺もやったぞ、こてつ!」
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