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「お前さんもお伊勢参りに来たのかい?」
犬はやせて薄汚れていた。首に木札が下がっているが、文字はほとんど消えてしまっていて読むことができない。
「あぁ、これじゃ、参拝犬かどうかわからねぇなぁ」
木札と一緒に荷物がくくられているところを見るとそうなのだろう。だが、文字が消えてるせいできっと、ながらく辛い旅をしてきたに違いない。
やたら徳を積みたがる者にかぎって見返りや痕跡を残したがる。この犬が、誰の遣いでどこへ戻るのか判明しないばかりに、良い施しが受けられていないのだ。
自分は脱落者ようなもの。竹朗は懐の有り金を犬に託した。
「俺の分までお参りしてきてくれよ。少しだが、足しにしてくれ。……とはいえ、今のお前さんにゃ、金より食い物か。待てよ、何かあったかな……って、オイ!」
竹朗が袂をゴソゴソあさっている間に、犬はスタスタと行ってしまった。
振り向きもせず、しっかりとした足取りで行く犬をみて、竹朗は感嘆の声をあげた。
「はぁ、大したもんだ。何も持ってやしねぇって気付いたか。それにしても、気丈なもんだ。……がんばれよ」
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