太郎のお伊勢参り

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 月日が流れ、竹朗は古市街道で日雇い生活をしていた。  お伊勢さまの外宮から内宮を結ぶ丘陵に沿った一本道、この街道の華やぎようといったら江戸より旅してきた竹朗からしてみてもたとえがない。少しまとまった金を稼ぐには都合が良かった。    「太郎のやつ、元気でやってるといいが……」    二見浦から外宮までの道のりを注意深く見回ってきたが犬は見かけず、この頃になると竹朗はあの犬をかってに太郎と呼んでいた。会えなくなって久しいがそれほど親身に思っていた。  その太郎が、いよいよここまで来て、初穂料を納められないなんてことがあってはならない。もちろん、まずは自分の食い扶持のためもあるが、太郎に会える日を望みに日銭を積み重ねていた。    あの日を最後に、二見浦(ふたみがうら)で犬を見かけることはなく、順調に先へ進んでいったに違いないと信じていた。  無事に旅立ったならそれに越したことは無いのだが、竹朗は気がかりでどうしようもなくなってしまった。居てもたってもおられなくなり、ついに二見浦を離れたのだった。  お伊勢参りは二見浦で身を清めた後、外宮、内宮と順に詣でるのがしきたりだ。古市街道で見なければ、次は内宮。初穂料の心配など大きなお世話で、太郎は無事にお参りを済ませたのやもしれぬ。そう思った矢先、なんと、宿の軒先で水を撒いていた竹朗の目の前を、スタスタと太郎が横切っていくではないか。
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