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太郎は竹朗の前を通り過ぎ、少し先の茶屋へと入っていった。ちょうど昼時。飯でも食うのか、賢いな。と見やっていたら、小僧に連れられ太郎が出てきた。小僧は首に巻かれた綱を引っ張っていて、とても手助けしているようには見受けられない。
竹朗は、すぐさま茶屋へ飛び込んだ。
「ちょいと、いいかい? 今、犬が出て行ったようだが」
「ああ。あんたの犬かい?」
「いいや。お伊勢参りの犬だ」
「そうだったのかい。もしやと思ったが一銭も持っていなかったよ。なんだか薄汚れた犬だったから、遠くへやるように言い付けたところさ」
「いやいや! それは駄目だ。小僧を呼びもどせ。こいつで飯を食わせてやってくれ」
心付けを含めた昼飯代を渡し、竹朗は茶屋の主人に頼み込んだ。
「太郎のヤツ、また一文無しになっちまったのか……」
持ち場に戻り、茶屋の様子を伺いながら、竹朗は思案した。手出しするまい、と決めた矢先だがこれはひと肌脱ぐしかない。なにせ、太郎の旅路が危ういのだ。
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