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竹朗は、すぐさま太郎につきまとった。だが、道連れになったわけではない。あくまでも、たまたま向かう先が同じと装って、太郎のいく先々で会計だけを済ませてやった。
もちろん、内宮でも初穂料を用立てた。知ってか知らずか、晴れて伊勢参宮をやり遂げた太郎は心なしか得意げな顔をしていた。そしてさっそく帰路へ着くのだった。
「おう、また会ったな。今日はこの宿にするのかい? 俺もさぁ。奇遇だな」
そんな風に声をかけ、宿には「お伊勢参りの犬だ。アイツの分は俺に付けといてくれ」と、一言添える。そういう事情なら代金はいらないと、人情に助けられたこともあれば、原っぱを宿にするときもあり。歩みを止めない太郎を追いつつ、日銭も稼がなければならない竹朗にとっては休む間もないきつい旅路であったが、心は満たされていた。
こうして付かず離れずの距離を保ち、ゆうに二十は関所を越えた。そして掛川の辺りで、太郎がついに街道を外れた。
もしや――。竹朗の鼓動が大きく波打った。
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