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最初に違和感を覚えたのは、散歩の時だった。いつもなら玄関を開けた途端に勢いよく外に飛び出すマロンが、私の後をぺちぺちとお行儀よくついてくる。塀の上で日向ぼっこをしている野良猫を見かけても、全然吠えやしない。家に帰るのが嫌で、折り返し地点で地面にひれ伏すことも無かった。
体調でも悪いのかと思ったが、ドッグフードが入った餌の容器は空っぽになっている。食欲は旺盛らしい。でも、食後に少しだけ与えていた大好物のバナナには、見向きもしなかった。
「なんだかマロン、ちょっと様子が違くない?」
祖母に尋ねたが、「いつも通り元気でしょ」とにべもなく返された。たしかにおもちゃのボールを投げれば、カシャカシャと床を滑るように駆けていく。元気が有り余っていることこの上なしだ。
「あんたは久しぶり会うから、そう感じるんだよ」
「久しぶりって言っても、二週間前に会ったばかりでしょ」
「二週間前のことなんて、あたしはぜんぜん覚えていないけどね」
最近物忘れがとくに激しくなった祖母が、ブラックジョークを投げかけてくる。反応に困っている私の様子を楽しんでいるのか、顔中の皺がより一層深くなった。
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