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近所のスーパーに行って、グラム108円の豚コマとしめじと人参とバーモントカレーの中辛をカゴに入れる。冷凍ストックできるよう、メモ書きより多めに買うことにした。スーパーを一回りする頃には、紅茶や羊羹、食パン、豆腐、長ネギもカゴに追加していた。
「足りないものがあれば自分でスーパーに行くからいいよ」
祖母はそう言うだろうが、高齢者の独り暮らしだと思うと、ついつい余計な物まで買ってしまう。カレー屋さんで外食したと思えば、安いものだ。
祖母は恐らく、私以外に食卓を囲む人はいない。旦那さん――つまり私の祖父は十数年前に癌で亡くなったらしい。私は幼かったからほとんど記憶に残っていない。ただ、タバコの匂いを嗅ぐと祖父を思い出すから、きっとそう言うことなんだろう。
祖母と祖父は当時には珍しく恋愛結婚で、しかも略奪愛だったらしい。
「ウチの旦那さんには当時、奥さんと子どもがいてね。」
珍しくお酒を飲んで上機嫌だった祖母が、懐かしむように話してくれたことがあった。
「なにそれ、妻子がいる男を盗ったってこと?」
「そうなるのかね。もっとも、私たちが出会った頃には夫婦関係はすっかり冷え切っていたみたいだけれど」
ドラマでしか聞いたことがないような話が、祖母のしなびた唇からするすると零れ落ちる。
私の反応に気を良くした彼女は、押し入れから昔のアルバムを引っ張り出して見せてくれた。色褪せた写真の中には、私によく似た女性が映っていて、堀の深い男性と腕を絡ませている。
「なんだかうまく言えないけれど、お祖母ちゃん凄いね」
「そうかい、照れるねえ」
「略奪愛ってことはみんなから反対されなかったの?」
「そりゃされたさ。旦那さんの親戚はもちろん、ウチの親戚一同からも総すかんさ」
「そんなにもお祖父ちゃんのことが好きだったんだ」
「それもあるけれど、私自身の生き方の問題だね」
「生き方?」
「そう、私は欲しい物はどうやっても手に入れる性分なんだよ。そうやってこれまで生きてきたからね」
なかなかにしんどそうな生き方で、私にはいまいち理解できそうになかった。
「でも、みんなに祝福されたいとは思わなかったの?」
「そんなの糞くらえだよ。私の人生に責任を持ってくれない連中の言うことを、どうして聞かなきゃいけないんだい」
「かもしれないけどさ」
「まああの連中たちは、今でも許してはいないんじゃないかね」
祖母はそう言うと、くっくっと愉快そうに笑った。
たしかに、私以外の孫が祖母の家にやってきたという話は、これまで聞いたことが無かった。その上、たった一人の娘である母との折り合いも悪いのだ。
祖母の家を訪れるのは、孫である私の他には週二回だけやってくるヘルパーさんだけ。同年代の友人と遊びに行ったとか、習い事をしているとかも聞いたことがない。表面上は「よけいな付き合いがなくてせいせいするわ」と言っているが、本心はどうなのだろうか。
夕食後のデザートを準備するために台所に立つ祖母の背中が、いつもより小さく見えた。
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