トーコさんと私(6)

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 冬至近くの夕方は、もうすでに暗闇に包まれていた。  帰宅後、私は自室で油絵セットの木箱を、八年ぶりに開けた。独特の油の匂いが部屋に広がる。ブラシクリーナーの溶液は、もう半分以上揮発してしまっている。  換気のため窓を開けると、冷たい空気とともに、夜が部屋に入り込んできた。目の前に広がる星空に、オリオンの三つ星を見つけた。そこから少し下に下がると、シリウスが強く輝いている。トーコさんの絵のように、強く青く、どこまでも真っ直ぐに。  私は会ったことのないシリウスという犬に誓った。  私は絵を描く。いつか、トーコさんを描く時に、私の腕が鈍っていないように。練習できる時間が、出来る限り長くなるようにと、私は筆を手に取った。
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