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トーコさんと私(3)
二十数年の人生の中で、私は明確な挫折を二回経験している(恋愛関係は別として)。一回は新卒で入った会社を辞めたこと。もう一回は、高校生の時、美大への進学をあきらめたことだ。
それは家庭の経済的な問題ではなく、私が自分の才能を信じ切ることが出来なかったことが原因だった。小・中・高校と、私は絵が上手いと言われていて、様々なコンクールでの受賞歴もあった。だから、自分の才能への自負もあった。それが、美大を目指す人が通うスクールに行った時、打ち砕かれた。私よりも何倍もデッサンの上手な人、個性的な絵が描ける人。この人達と、自分の才能のみを武器に、椅子取りゲームのように合格枠を争わないといけない。
私は競う前にその場から去ることにした。明確な勝敗が付く前に、自らを「負け」として逃げた。それ以降は絵を描くことをやめた。描こうとすると、スクールの人々の絵がちらつき、自分の描くものが全て駄作に見えたからだった。
トーコさんは、何の打算もなく私の絵を好きと言ってくれた。私は、ほんの少しなら、トーコさんが描く手伝いをしましょうか、という方向に気持ちが動いた。
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