トーコさんとシリウス(2)

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トーコさんとシリウス(2)

 「シリウスっていう名前は、出会った最初からそう名付けようと思っていたわ。  瞳の色が薄青くて、冬の空に強く輝くシリウスにそっくりだったの。本当に美しい瞳だったわ。どこまでも遠くを見透していて、目が合うだけで澄んだ空気がこちらにも流れてくるようだった。  それから十二年、ずっと一緒に暮らしたわ。その間にあった色々を一緒に乗り越えた。シリウスは賢い子で、私が悲しんでいると必ずそばに来て寄り添ってくれた。柔らかくふんわりとした毛に顔を埋めれば、悲しみはその暖かさにゆっくりと解かされていく気がしたわ。  最期の一年、シリウスは足を悪くしてね。自由に散歩することも難しくなって、日の当たる窓際でよく眠っていたわ。私はシリウスを撫でながら、一緒に芝生を走っている時のように語りかけた。そうすると、シリウスは目をつぶって、かつて自由に走っていた時のように、前足を少し動かし口の中で小さく遠吠えをするの。懐かしいわ……」
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