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石棺守
60を過ぎた小柄な着物姿の女性と20代半ばの若い娘が倭の前で三つ指をつく。
「石棺守・東雲キヨ及び東雲奈津、馳せ参じました」
「お館様にご挨拶申し上げます」
キヨと奈津は25歳の若き当主に平伏する。
「78代 織田家当主、織田倭だ」
奈津とは同じ年頃のはずなのに、倭の圧倒的な存在感に射すくめられる。
涼やかな切れ長の黒い瞳を直視できず、奈津は両手をついたままじっと床に視線を這わせていた。
「良くぞ参られた! 本家世話役・松平定範と申す」
定範は二人に着座を進めると、さっそく説明を始めた。
「人の心に巣くう怒り恨み妬み嫉み。これら瘴気が溜まると邪道に通じてこの世に鬼裂を生じさせる。この鬼裂が開くと、奈落から大量の邪気が放たれ鬼童を生み出す。鬼童に取り憑かれた人間は鬼となリ、災いを招く……200年の沈黙を破り、先ほど瘴気濃度が危険値を超え申した」
キヨと奈津はそれを聞いて表情を強張らせた。
「ここにいる5人が当代の守護役である。かように有事へ備えてはおるが、万が一鬼が現れれば石棺の封印を解き『命様』に現し世へとお出ましいただかねばならぬ。さすれば石棺守であるそなたらの力添えが必要となる」
「心得てございます」
キヨは板間に手をつき深く頭を下げた。
「早速だが、わしは命様のお出ましに備えて準備がある。守護の部屋は東対に用意してある。食事までしばらく休んでおってくれ」
そういって立ち上がる定範に雪乃が手を挙げて質問した。
「あっ、屋敷の中を見学してもいいですか?」
「西対は『命様』のお住いとなるため、立ち入りはできぬ。それ以外は自由にしていいぞ」
定範はそう答えると、石棺守の二人を従えてせわしなく広間を出ていってしまった。
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