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石棺が開いた瞬間、倭は『懐かしい』という感情に囚われ思わず泣きそうになった。
慌てて奥歯をかみしめてこらえながら、倭は戸惑う。
出会ったことなどあるはずもない『浄めの姫君』に、ここまで感情を揺さぶられるとは!
倭は密かに動揺し、祭壇の下で立ち尽くしていた。
衣擦れの音が石棺の中から聞こえ、静かにゆっくりと姫君が起き上がる。
流れるようなつややかな黒髪、伏せ気味の黒い目。陶磁のような絹の肌に艷やかな薄紅の唇。
「お館様、お名乗りください」
定範に小声で促され、倭はハッと我に返った。
「78代目当主、織田倭」
ボソボソと告げる倭を黒曜石のような瞳に映し、命様はわずかに微笑まれた。
当主に続き、石棺守である東雲家の二人が進み出て口上を述べる。
「我らの時代に命様をお迎えさせていただき光栄至極に存じます。現世にて命様にお仕えさせていただきます、東雲キヨと申します」
「東雲奈津にございます」
直属の侍女となる二人が挨拶をすると、姫君は声を出さずに小さく頷いた。
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