27人が本棚に入れています
本棚に追加
餓鬼出現
黒い靄に覆われた建物の中は夕暮れ時にも関わらず真っ暗だった。長い廊下の所々で非常灯が弱い光を放っている。
菜々花の示した白い柱が暗い廊下の奥で光っているのが見えた。
「行くぞ」
倭の声に反応して、守護の三人は弾かれたように駆け出す。
光の柱を右手に捉えながら、倭の目は正面に向けられていた。
施設の最奥は広い食堂となっていた。大きな机がいくつも並んだそのスペース、奥の調理場にモゾモゾと動く影が見える。
「あれは……『餓鬼』?!」
巨大な業務用の冷蔵庫に群がっているのはガリガリの四肢と不自然に膨れた腹をした鬼だった。
「施設の入所者だろうな」
餓鬼の着ている花柄のパジャマをみて理人が呟く。
「この飽食の時代に餓鬼とは哀れな……」
そう言って、高良は祓刀を抜いた。
「キシャーーーッッ」
祓刀の神気を感じ取った餓鬼たちが一斉に振り向き威嚇してくる。
「理人と雪乃で鬼裂を塞げ。高良は俺と餓鬼を倒す」
「はっ!」
倭の指示に従って三人は持ち場に分かれた。
「飢えの苦しみから開放し、せめて苦しまずに送ってやろう」
倭の言葉に高良は大きく頷き、その巨体にそぐわぬスピードで餓鬼の群れに切り込んだ。
神力をまとわせた祓刀の青白い光が二本、薄暗い食堂で流れるような軌跡を描く。
鋭い爪と硬い牙で飛びかかってくる餓鬼たちの首を一閃で落とすはせめてもの情。
自身が滅されたことにも気づかぬうちに、食堂には20体ほどの屍が積み上がった。
「行くぞ」
刀を振り黒い餓鬼の体液を飛ばしながら、倭は走り出す。
屍の山に手を合わせていた高良は慌てて後を追った。
最初のコメントを投稿しよう!