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集会所と思われる開けたスペースにそれはあった。
床から壁にかけて大きく開いた裂け目から、生臭い臭気が漂う。すべてのものを飲み込む闇の気配に背筋が凍る。
パックリと開いた奈落への入口に、理人と雪乃は向き合っていた。
二人はシュウシュウと音を立てて黒い邪気を吐き出し続ける鬼裂を、神力を塗り込め塞いでいく。
「クソッ、すごい勢いで力を吸われる!」
「心を強く持ちなさい! 弱い心は邪気に取り込まれるわよ!」
「分かってるって!!」
理人は祓刀を握り直した。気を放てば理人を取り囲む邪気が霧散する。
「やるじゃない!」
「どうよ! ちょっとは見直してくれた?」
「それはこの鬼裂を塞いでから考えるわ!!」
雪乃は吹き出す強風に黒髪をはためかせながら祓刀を振るう。
ザンッと風を切り雪乃の放った白い光が鬼裂を縫い合わせるかのようにジグザグと交差する。
出口の狭まった鬼裂から吹き出す邪気は、ますますその勢いを増した。
「一気に塞ぐぞ!」
理人と雪乃の背後から声がかかった。
「ご当主様!!」
その絶対的な声に背中を押され、理人と雪乃の祓刀は輝きを増した。
4本となった祓刀の筋は互いに絡み合い、一息に黒い鬼裂を塞いだ。
「やった! 止まった!!」
吹き出す風が凪ぎ、黒い靄が急速に晴れていく。ホッとしたように顔を見合わせて理人たちは刀を降ろした。
「外の鬼童は討伐完了です! 結界を解きます」
菜々花がドーム状の漁網を解除すると、すっかり夜は更けて空には星が瞬いていた。
「入所の高齢者は戦後の混乱期に生まれ、幼い頃に食糧難を経験した世代。三つ子の魂百までと申す。食への欲望が鬼童を引き寄せ、餓鬼となったのだろう」
高良が呟くと菜々花はシュンと落ち込む様子を見せた。
「初陣でいきなり鬼を出してしまいましたね……」
「あれは仕方ないっしょ。居住区に鬼裂が入ったんじゃ、避難のしようもない。菜々花ちゃんが落ち込むことじゃないって!」
すかさず理人が菜々花を慰めた。
「屋敷に戻るぞ」
一言そう言って、倭はくるりと踵を返す。街頭に照らされた倭の表情は険しかった。
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