きみのご指名

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きみのご指名

朝からすでに夏日を超え、圧迫感ある熱と湿度に縛られながら、僕は校門をくぐった。 今日の予想は地点によって猛暑日に到達するらしい。まだ梅雨のさなかだと言うのに、雨の気配なんかしばらくない。ずっと晴れたまま、梅雨が明けるんじゃないかとすら思える強い熱波だ。 「おーい、()(とう)ぉ、おはよぉー」 昇降口に入る手前、担任の()(すき)先生に声をかけられた。生徒よりも子供じみて、満面の笑顔でぶんぶん手を振っている。どうやらこっちに来いと言う意思表示のようだ。僕は軽く息をつき、担任のもとへ近づいていく。 「おはようございます、小簿先生。何ですか、用事ですか」 何だかんだ言いつつも、僕はこの人に世話になっている。手伝い程度ならしてあげたいが、僕から積極的に関わるのは遠慮したいところだ。 「ちと頼み事があってな。職員室まで来てくれ。おまえに任せたい女の子がいる」 あっけらかんとして言った。でも、僕は人に好まれる性格ではない。 「僕に任せたいって、しかも女の子? 他をあたった方が賢明じゃないですか」 しかし、先生はかぶりを振った。 「まあ、そうなんだがな。その子からのご指名なんだ。胡藤に頼みたいんだと。合わなかったら指名替えしてもらうから、それまで頼むよ」
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