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健康のために始めた早朝ジョギング。
ひとしきり走ってきて、公園のベンチで休んでいたら、後ろのベンチに座った知らない男が声をかけてきた。
「あなた、この公園の噂を知ってますか?」
唐突な問いに反応できずにいると、男はこちらの返事も待たずに噂の内容を喋り出した。
「この公園、首なし死体が出るらしいんですよ」
男が言うには、その死体は、近くの線路で事故に遭い、首と胴体が切断されてしまった人で、胴体は、見失った首を求めて彷徨っているとのことだった。
俺も割とこの近くに住んでいるが、電車の事故の話は初耳だ。もちろん首なし死体の話も。
しかし、胴体が首を探して彷徨っているなら、肝心の首の方はどこにあるのだろう。
噂を信じた上でその疑問を抱き、俺はそのことを男に尋ねてみた。
「首なし死体が動き回っているなら、首の方はどうなったんですか?」
それを口にすると、よくぞ聞いてくれたとばかりに、男は目を輝かせた。
「当然、自分の体を探してますよ。そのために、こうして首なし死体の噂を広め、目撃した人がいないかどうか探ってるんです」
それを聞いた瞬間、俺はようやく気づいた。ベンチ越しに話しかけてくる男には、首から下が存在していないことに。
大慌てで立ち上がり、俺はその場から駆け出した。そんな俺の背中に届いたのは。
「もし胴体を見かけたら教えて下さいね。ここのベンチに座ってくれれば、私、どこからともなく現れますので」
暢気な要求に、心の中で『絶対に、二度とここのベンチには座らない』と誓い、俺は公園を離れたよ。
もちろん、もう二度とこの公園には立ち寄らないつもりだ。
首なし死体にも首だけの男にも遭遇したくはないからな。
公園の噂…完
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