4.おいしい料理

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 汚れた身体は、拭くより洗い流した方がさっぱりするし衛生的だ。  岳は素早く俺の服を脱がせ、ひょいと抱えて浴室へ移動させるとイスに座らせ、まるでペットトリマーのごとく手際よく洗いだした。  あー楽ちん。  毎日こうしてもらいたいくらいだ。  岳なら言えばそうしてくれそうだけど。  泡を立てると髪も身体も素早く洗い、最後にシャワーで流し、気がつけばふかふかバスタオルに包まれ、ベッドの上にいた。  岳はドライヤーで髪を丁寧に乾かし終えると、 「ほら、おしまい。まだ吐き気はあるか?」  背後から岳が尋ねて来る。俺はタオルから岳愛用のバスローブにくるまれ、すっかり夢見心地だ。自然と岳にもたれながら。 「んん。大丈夫…。ちょっと、疲れてたんだ」  すると、岳はやや咎める様に。 「お前、昼、食べて無かったろ?」 「あ…う…。てか、すいて、なかったし…」  嘘だ。グウグウ唸っていた。  が、本当の事は言い辛い。まるで、悪戯を親に見つけられた時の子どもの心境だ。 「疲れていた上に、何も食べていない。そこに普段、食べつけない油の強いものを食べれば吐きもするだろ。俺も悪かった。気付いてたのに…」 「岳は、悪くない…。俺がちゃんとしてないからだって。それに、来たばっかりの七生を放っておけないだろ?」  俺はどうも、素直に甘えることが不得手で。  昔からひとりで頑張ることに慣れていた所為だろう。少しくらい不都合を感じても、素直に口に出来ない。  それに、七生はまだうちに慣れていない。なにかと気にかけてやらねば、緊張してしまうだろう。俺の我儘は通せなかった。  しかし、岳は。 「大和。俺には素直に甘えていい…。遠慮するな」  そのまま背後から抱きしめてきた。岳の腕が俺の胸元で組まれる。  ああ、なんか気持ちいいな…。  岳の温もりにほっとする。  岳に抱きしめられると、安心できて。ここにいていいのだと言われている様で、余計な身体の力が抜ける。  俺はその腕に手をかけながら。 「俺、甘えんの下手くそでさ。岳に余計な心配かけた。ちょっとずつでも変えられるよう、努力する…」  そう言えば、岳は小さく笑って。 「本当は俺がお前にもっとうまく甘えられるよう、環境を整えるべきなんだ。…すまない」 「いいって。岳は俺をちゃんと見てくれてる。わかってる…」  こうして、気付いてきてくれたのだ。  それに、俺自身が気づいていなかった体調の悪さにも気付いていて。ちゃんと見てくれている証拠だ。 「大和。もう今日はこのまま寝ろ。俺もここにいるから」 「なに言ってんだよ。七生が心配するだろ? まだ八時だし。早々に引っ込んだら、何かあたって──」  すると、岳が俺の唇に軽く指先をあてて。 「もう黙れ。いいから寝るんだ」 「ふぐ……」  そう言って、上から見下ろしてくる。その眼差しは殊の外真剣で。  色々言いたいことはあったけれど、大人しく岳の言うことに従った。  俺は岳に手伝ってもらいながら寝間着に着替え、歯を磨き寝支度を整えると、素直にベッドの布団の中へ潜りこんだ。  横に座った岳を見上げると。 「…ごめん。久しぶりなのに、相手できない…」 「バカ。気にすんな。お前の体調が先だ」  岳は前髪をかき分け、そこへキスをする。 「ん…。俺は──残念…」  へへっと笑って見せると、 「煽るな。それに、やるだけが繋がりじゃない。今晩は大人しく大和を抱いて眠るだけにする…」 「岳…。ありがとな…」  目を閉じて、唇に落ちてきた優しいキスを受け止めた。
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