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胃が痛む。
こんなの、初めてだ。
ベッドに寝転がって、くるっと丸くなる。
バカみたいだ。
皆と一緒に楽しめばいいのだ。
変わって行く環境も、七生中心の生活も。
なのに、それが出来ない。逆に自分の居場所を奪われた様で、七生に嫉妬さえ覚えるのだから始末が悪い。
俺は俺。七生は七生。それぞれの良さがある。羨むなんてバカらしい事だ。
わかっているのに、心がついて行かない。
何より、岳が心を許したように笑んでいるのが気になって。
相手が祐二だったり、以前住んでいたアパート管理人、ふくの孫、昇だったなら気にならない。
けれど、七生だとそうは行かなくて。もしかしたら、が無いとは言えないからだろう。
元々、俺は見てくれが良いわけじゃ無い。
そこに、料理も出来て性格もかわいい、七生のような人物がでてくれば、どう見たって俺の負けだ。俺だって、七生を選ぶだろう。
岳を信頼してない訳じゃない。けれど、気になってしまうのだ。
俺って、こんな奴だったんだな…。
痛む腹を抱えて目を閉じていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。
目が覚めた時には夜十時過ぎ。食事が終わったのが八時過ぎだ。うたた寝のつもりがすっかり寝入ってしまった。
起きて歯を磨かねば──と、身体を起こしかけると、肩から何かが滑り落ちる。
ん?
落ちたのは人の腕だ。驚いて傍らを振り返ると、隣りにすっかり眠り込んでいる岳がいた。
寝支度を整えているのを見ると、シャワーも浴び終えているのだろう。
いつ戻って来たんだろう。
それに気付かないくらい、俺は眠り込んでいたらしい。そんな岳を残し、そっとベッドを降りると洗面所へ向かった。
寂しく一人寝していると思った。
眠りの中、心地良い温もりに気持ち良くしていたのだが、どうやらそれは岳の温もりだったらしい。
歯を磨き終え、さあ、寝直そうと寝室に戻ろうとすれば、戸口に岳が立っていた。
気配を感じなかったため、驚いて飛び上がる。驚いた猫と一緒だ。
「お、驚くだろ? なんだ。歯、磨くか?」
洗面所を使いたかったのかと素早く移動すれば。岳は俺の方へずいと近寄ると、俺を挟んで壁に手をつく。いわゆる、壁ドンだ。
「もう、磨いた。…なあ、何か言いたいこと、ないか?」
洗面台の壁と岳とに挟まれ、身動きが取れなくなる。俺は妙に威圧感のある岳を見上げると。
「…べ、別に──」
「あるんだろ?」
「……ねぇよ」
言えるわけがない。
七生に嫉妬しているかもなんて。自分の居場所が無くなりそうで心配だなんて。
これは俺の心の狭さが起因していることで。岳に相談する様な事じゃない。
ぐぐっと言葉につまった俺に岳はため息をつくと。
「言わないならいい。けどな──」
そう言うと、くいと俺の顎を取って上向かせる。
「んだよ」
尖らせた口先に、軽い触れるだけのキスが落ちてきた。
「…あまり、抱え込むなよ?」
「……」
間近でじっと見つめられる。
岳は──分かっているのだ。どんなに誤魔化しても。
そう言い終えると、更に深く唇が重なる。これは触れるだけにとどまらない奴だ。
うむ、これは。
「もう遅い。少しだけ…いいか?」
唇を離した岳は、熱っぽい目で見つめてくる。そんな目で見つめられれば、答えなど決まっていた。
「お、おうっ」
俺の返事に岳はフッと笑んでから、顔を赤くした俺を腰から持ち上げる様に抱え上げ、ベッドへと運んで行った。
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