1.穏やかな日々

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 けれど、それから暫くして。  日増しに仕事は忙しくなり。俺は六月から十月中旬まで山小屋の手伝いに入っていた。  今は九月下旬。あと少しで山小屋の仕事も終わる。  その間は、岳の異母兄弟、高校三年生の亜貴(あき)の母方の祖母、倖江(さちえ)が住み込みで手伝いに来ていたのだが、何と腰を痛めてしまったのだ。  こうなると当然のごとく、家事をやるものがいない。  岳や、今は一緒に住む弁護士事務所に務めている真琴(まこと)も食事は作れる。掃除だって出来る。  俺が休みで帰ってきた日以外は──山小屋管理人の祐二(ゆうじ)が気を利かせて、月火の週休二日制にしてくれた──真琴がメインでこなしてくれたが、それも限界にきていて。  真琴も在宅の仕事ばかりではない。一旦難しい案件が入れば遅くなることもしばしば。  岳も岳で自宅兼事務所にいるのも不定期だし、途中で仕事が入ると放り出すことになる。  となると、亜貴の出番か? となるが、亜貴はまだ高校生だ。しかも受験を控えている。  その亜貴に、たとえ出来たとしても俺がいない間の家事全てを任せられない。  実際は卵一個割れないが。いつか割らせてみたが、見事、粉砕された殻ごとボウルに投入され、暫し、呆然とした。  受験が終わったらしごくつもりだ。最低でも、米を洗えて、ゆで卵くらい作れれば、生きていけるだろう。  ともかく、亜貴に任せれば、間違えればヤングケアラーとなってしまう。  俺のいない間、成人男性二人の世話などさせられない。まあ、ちょっとはアワアワと苦戦する亜貴も見てみたい気はするが。  これでは家の中が荒れ放題になってしまう。誰か専属に手伝ってもらえる人が欲しい。  それは皆の一致した見解だった。
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