2.怒られる

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2.怒られる

 山小屋が休みの月曜日の夕食後、岳と(くだん)の話になった。  亜貴は既に自室に戻って勉強をしている。真琴は今晩は打ち合わせで遅くなるから外食との事だった。  俺は食後のコーヒーをリビングで待つ岳に持っていくと。 「誰か雇う、とか…?」  ソファに座る岳は、俺の提案に腕組みする。俺もカフェオレ片手にその隣に座った。 「それがいいんだろうが…。矢鱈な奴をここには入れたくない」  それは分かる。  昔、岳が俺に言った言葉でもあった。見も知らない誰かが家の中にいるのは、かなりストレスだ。 「うーん。じゃ、やっぱり、俺が山小屋の手伝い、早目に切り上げるか…」  あと、半月と少しあるが、この際断るしか無いだろう。でなければ、この家は崩壊する。埃だらけの蜘蛛の巣だらけ、インスタント食品だらけの生活に逆戻りだ。  俺の本分は、岳らとの生活を守る事だと思っている。山小屋の管理を任されている友人、祐二(ゆうじ)には申し訳ないが、俺の心は固まった。  しかし、俺の言葉に岳が渋々と言った具合に口を開く。 「それだと、せっかく大和を頼りにしてる祐二に悪い。倖江さんが、兄妹につてがあるかもって言ってたんだ。そっちを当たってみるか…」  余り乗り気ではないらしい。やはり、外部の人間だからだろうか。 「兄妹?」 「倖江さんの妹の孫になるそうだ。妹はフランス人と結婚して、海外にいるらしいが、子どもたちは日本で暮らしてるそうだ」 「へぇ…」  なかなかグローバルだ。 「亜貴とは遠い親戚になるな。二十一歳、男だそうだ。大和と同じ歳だな? 短大で保育士の免許を取ったあと保育園で働いていたらしい。なんでも仕事内容がきつすぎて、仕事を辞めて今は実家で休んでいると言ってたな…」 「ふーん」  保育の仕事は楽しいらしいが、子どもより、親への対応に苦慮すると聞いた事がある。実際、大変なのだろう。 「就職先を探しているって話だが、その繋ぎにうちに来てもらおうかと思うが…。どう思う?」 「いいんじゃねぇの? 倖江さんの紹介だし。それに男子の方がいいよな。やっぱり女子だと、飢えた男どもの中には放り込めないしな…」  岳はいいにしても──ちなみに岳は高校時代、女性と付き合っていた事もあるのだが、大学に入って同性である紗月(さつき)と初めて付き合い、それが案外気楽で、それから同性だけになったのだと言う──俺含め、亜貴や真琴は一応、ストレートだと思っている。  俺には岳がいるからいいけれど、他二名は今の所、特定の相手はいない。  ちなみに真琴は付き合っていたかと思えば別れ、また別の女性と付き合うを繰り返していた。酷い仕打ちをしている訳ではなく、仕事が忙しく、つい連絡を怠っていると、向こうから別れを告げられてしまうらしい。  ただ、モテるため直ぐに次に立候補してくる女性がいるのだとか。  流石だ。真琴さん。  それは置いておいて、兎に角、年頃の女子が入ってきては、間違いが起こらないともかぎらない。何かあってからでは遅いのだ。  しかし、岳は髪をかき上げつつ。 「まあ、あいつらがほかに目をむけるとは思わないが…。確かに男の方がいいだろう。けど…」  ちらと俺を見た後。 「俺はお前が心配だ」  
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