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俺はその夜、ろくに眠れず。
朝方まで悶々として寝返りばかり打っていた。気が付けば空が白み始める頃、ようやくうっすら眠った程度。
朝、起きて覗き込んだ鏡の向こうには、目の下にはクマができて、青白い顔をした俺がいた。なにより食欲もわかず、身体に力も入らない。
朝起きてからも昨日の今日で。
怖くてテレビもつけられない。アレクがせっかく焼いてくれたトーストも匂いを嗅いだだけで、お腹いっぱいになり食べる気が起きなかった。
仕方なく水分くらい取れと、アレクに温めたミルクを渡されたが、それも今漸く飲んだところで。
アレクはその後、仕事へと向かった。
俺、どうしたらいいんだ?
アレクが用意してくれた寝間着用のスウェット上下を身に着けて、リビングのソファに膝を抱えたまま座っているのが現状だ。
身に着けている服は全てサイズアウトで袖も裾も折り上げている。ラルフのものだからだろう。
全てが情けない。
俺は警察に追われているんだろうか。
柳木の状態はどうなのだろう。気になることは山程ある。
俺も刺された経験がある。すぐに発見されればなんとかなるが、刺された所が悪いとどうしようもないらしい。
俺はかなり危険だったわけだが──。
その経験があるなら、あの時、俺がすべき行動は、柳木の応急処置だったわけで。てんぱっている場合じゃなかったんだ。
それなのに。
昨日、念入りに洗い流した右手の平の血の跡を思い出す。真っ赤になった血は黒く固まって貼り付いていた。
岳…。俺、どうしたらいいんだ?
やっぱり、会いたい。
けれど、俺が会いに行けば、迷惑がかかるかも知れないのだ。
柳木の倒れた現場にいたとなれば、警察から手配されている可能性がある。そんな時、家に戻れば迷惑しかかけないだろう。
左手薬指のリングを見つめた。
──岳の側には当分、戻れない。
そして、同じ理由で、ここにいてはラルフにも迷惑がかかる。
兎に角、出ていくしかないだろう。
行き先なんて、思いつかないけれど。
こんな風に一気に自分の状況が転落するとは思ってもみなかった。
皆で楽しく穏やかな日々を、送っていたのに──。
俺は見えない未来に、暗たんたる思いに囚われた。
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