31.それぞれの思い

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 俺はその夜、ろくに眠れず。  朝方まで悶々として寝返りばかり打っていた。気が付けば空が白み始める頃、ようやくうっすら眠った程度。  朝、起きて覗き込んだ鏡の向こうには、目の下にはクマができて、青白い顔をした俺がいた。なにより食欲もわかず、身体に力も入らない。  朝起きてからも昨日の今日で。  怖くてテレビもつけられない。アレクがせっかく焼いてくれたトーストも匂いを嗅いだだけで、お腹いっぱいになり食べる気が起きなかった。  仕方なく水分くらい取れと、アレクに温めたミルクを渡されたが、それも今漸く飲んだところで。  アレクはその後、仕事へと向かった。  俺、どうしたらいいんだ?  アレクが用意してくれた寝間着用のスウェット上下を身に着けて、リビングのソファに膝を抱えたまま座っているのが現状だ。  身に着けている服は全てサイズアウトで袖も裾も折り上げている。ラルフのものだからだろう。  全てが情けない。  俺は警察に追われているんだろうか。  柳木の状態はどうなのだろう。気になることは山程ある。  俺も刺された経験がある。すぐに発見されればなんとかなるが、刺された所が悪いとどうしようもないらしい。  俺はかなり危険だったわけだが──。  その経験があるなら、あの時、俺がすべき行動は、柳木の応急処置だったわけで。てんぱっている場合じゃなかったんだ。  それなのに。  昨日、念入りに洗い流した右手の平の血の跡を思い出す。真っ赤になった血は黒く固まって貼り付いていた。  岳…。俺、どうしたらいいんだ?  やっぱり、会いたい。  けれど、俺が会いに行けば、迷惑がかかるかも知れないのだ。  柳木の倒れた現場にいたとなれば、警察から手配されている可能性がある。そんな時、家に戻れば迷惑しかかけないだろう。  左手薬指のリングを見つめた。  ──岳の側には当分、戻れない。  そして、同じ理由で、ここにいてはラルフにも迷惑がかかる。  兎に角、出ていくしかないだろう。  行き先なんて、思いつかないけれど。  こんな風に一気に自分の状況が転落するとは思ってもみなかった。  皆で楽しく穏やかな日々を、送っていたのに──。  俺は見えない未来に、暗たんたる思いに囚われた。
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