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「助けたい人間がいるんだ。病魔に狙われておそらく命が危ない」
「へぇ、それは可哀想に」
荊棘は大して表情を変えずに言った。
その慈悲のない態度に俺は苛ついたが、頼む側としてはここで揉めたら終わりだ。
「……視せて」
荊棘は白い手をぐっと伸ばして俺の右手を掴んだ。俺の手のひらに自身の手を重ねて目を閉じる。突然の行動に戸惑いつつも、俺は黙って見ていた。
「ふぅん…なるほど」
それだけ言うと重ねた手を滑らすように離した。
そして何か掴み取ったように握った手を、カウンターに置いてあった銀色の天秤の片方に向けて開いた。
淡い桃色の炎がその天秤に乗り、重さで下へガクンと落ちた。
「助けたい…なら、何を代わりにする?」
微笑んだ口元とは裏腹に、荊棘の瞳は氷のように冷たくも見えた。
俺は一瞬怯みそうになったが、意を決して答えた。
「俺の命を代償にする」
荊棘は俺の左胸に手を添えると、また掴み取るように握った手を天秤のもう片方の上で開いた。
俺の魂とも言える黒い炎がそこへ乗ると、天秤はゆらゆらと上下に動いたが、桃色の炎が若干下へと傾いた。
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