奇跡の薬、最後の仕事

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俺達の話が途切れたところで、アイナが組み終えたブロックを持ってきた。 「みて〜、ダークヒーロー」 「…上手にできたね」 黒と黄色と紫のブロックで作られたロボットのような「ダークヒーロー」は、俺の左手に付けられたブレスレットと同じ色だった。 廊下の奥の方でカタンと物音がして、紘一さんは様子を見に部屋を出た。おそらく麻里奈さんが起きたのかもしれない。 「アイナ…これさ、アイナがくれたブレスレット。俺、失くしちゃうかもしれないから…アイナが持っててくれないか?」 「ん? いいよ?」 俺はビーズのブレスレットを外し、アイナに渡した。 アイナはそれを自分の手首にはめると、ゆるゆるなブレスレットを回しては笑った。 「いつか…いつの日か、俺がまたアイナに会えたら、そのブレスレット渡してくれる?」 正直、会えるかは分からない。いや、望みはないのかもしれない。それでも約束をしておきたかった。また会いたい、そんな願いをアイナに託して最後にしようと思った。 「いいよー!」 アイナは笑顔で答えてくれた。 その笑顔に俺は小さく溜息をついた。そして、ポケットから例の薬を包んだ袋を取り出した。 それは一見するとキャンディの袋に見える。 「アイナ、これ…。ママにあげて」 「お菓子? ママに?」 アイナの小さな手のひらに袋を乗せ握らせた。 「これは、ママが元気になるお薬。これを飲めばママは元気になるから」 「ほんとぉ?」 アイナは丸い目を輝かせて俺を見上げた。 屈んでアイナの頭をポンポンと撫でると、立ち上がり玄関へと歩いた。 「パパとママにもよろしくな」 トタトタと玄関まで見送りに来たアイナが「バイバイ」と手を振る。俺も振り返り、手を振った。
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