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死神と少女
――午後3時20分、ひとつの命が消えた。
さっきまで「戻って来て」と泣き叫んでいた家族がベッド脇で死者にしがみつくようにして、静かに泣き始めた。
そこから一人、背の高い老人が悲しげな表情で俺の方へ歩いてきた。
「お疲れ様。名残惜しいだろうが、まずは手続きが必要だ。俺について来てくれ」
病室を出て、パジャマ姿の老人と歩く。
患者を乗せた車椅子を押す看護師、長い待ち時間に飽き飽きとした表情を見せる人々。
黒いローブを纏った俺は、明らかに周りから浮いた存在であるはずだが、病院内の誰からも視線を向けられることはなかった。
なぜなら、俺は……死神だからだ。
廊下の奥、何もない壁に向かって俺は右手を突き出した。黒と黄色の靄が混じり合いながら、長方形に形作られると木製のクラシックな扉が現れた。
「この先の階段を真っ直ぐ上がれ。着いた所に受付がある……安心しろ、お前は天国逝きだ」
老人はほっとした表情を見せると、お辞儀をし、扉を開けて中へと入って行った。
「さてと…」
俺は右手を扉に添えて靄に戻すと、それを手のひらに吸収した。気がつけば後ろからパチパチと音がする。
ハッとして振り返ると、そこには小さな女の子が俺に向かって拍手をしていた。
――何だこいつ!? まさか…視えている!?
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