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あ、彼だ。 降ろしていた腕を上げる。 お早う!今日は早いんだね。いつもはもっと遅く… 「なぁハルヤ、ガッコー着いたらさ、A組見に行かね?」 「なんで?」 「可愛い子いるんだよー!何だっけ…あぁ、あの子だよ、サトウって子…」 ……行ってしまった。 また腕を下げる。 私には今、片思いしている男の子が居る。 名前はリオンと言うらしい。彼の友人の、ハルヤという子が呼んでいた。 つい一ヶ月前からここに居ることになった私は、毎朝目の前を通っていくリオン君に一目惚れしてしまった。 もちろんまともに向かい合ったこともない。 というか、話しかけても返事が無いのだ。 せめてリオン君とその友人が言う、ガッコーに行けたらなぁ…。 そう思いながらまた腕を上げる。 目の前を数人が通り過ぎて行った。 夕方。 あ、彼だ。 お帰りなさい!ねぇ聞いて、私今日もたっくさん腕を上げ下げしたの。リオン君もガッコーどう… 「ハルヤぁ、今からカラオケ行こうぜー」 「昨日も行ったろ、てか俺はゲーセン行きてぇ」 「お、いいな!ゲーセン行ってからカラオケ行こうや!」 「リオンさぁ…ドンヨクだなぁ…」 ……また無視。 いや、無視じゃない。 そもそも私の声など無いのだ。 腕を下げる。しばらくすると轟音が近づいてくる。 デンシャだ。 腕を上げる。人々が歩き出す。 次にリオン君たちが通るのは…あと、どれくらいだろうか。 カンカンカン、カンカンカン 彼の姿を思い出し、高鳴る心臓…いや、気持ちを乗せて、音を響かせる。 デンシャの横切った静かな住宅街。 腕を上げる。 通る人は誰もいない。 『リオン君、私ずっと待ってるからね。』 腕を下げると、轟音が近づいてくるのがわかった。
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