レモンの海に星が光った

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『“死に別れ“に向き合えなかった罰だよ。』 重々しい宣告のように、それは響いた。異形に備わったタコの口がはっきりと動き、絡みつくように飾られた菜の花たちが、まるで賛成の意を表するようにサワサワと鳴った。小夜子には、さっきの言葉が異形の口から出たものだとはっきりわかった。 ———もう、間に合わない。 理解はしていた。しかし、小夜子はそれでもこの状況をどうにかひっくり返してみせたかった。 するり。 するり、するり。 する、する、するり。 一皮一皮、剥けてゆく。お婆さんはエンドウマメが鞘を脱ぎ捨てるように、透明な何かを剥いでいった。 だんだん、だんだん、変身が進む。ゆっくりと、人間の形が変わり始める。 ———秋刀魚と藤の花が混じり合ったような、異形が火に当たっていた。 もはや、お婆さんはヒトではなくなっていた。タコと菜の花の異形の隣に、秋刀魚と藤の花の異形が腰を下ろす。そして共に、ゆっくりと数珠をつなぎ始めた。 一粒。一粒。延々と、どこまでも長い長い玉つなぎ。 ふっと気づくと、目の前の光景にだんだん霞が掛かってきている。ぼんやりしている小夜子の前で、二つの異形の姿は薄れ、ついにふっと暗闇に消えてしまった。 「———ね。眺めていることしか、できなかったでしょう。」
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