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「ここです。」
指のさされた方向を見ると、小さな泉が沸いていた。キラキラと、ガラスの破片のようなものがたくさん煌めいている。まるで一つの宝石作品のようになっているそこに、小夜子は魔法のように釘付けになった。
……ああ、いけない。
ここでぼんやりしている場合ではない。
そう思って、小夜子は手に持っていたグラスを放り投げた。グラスは泉の真ん中へと美しい放物線を描いて飛んでいって、すでに積み重なっていたガラスの山に当たって砕けた。
カシャン、と軽い音が響く。
弾けたグラス。さっき小夜子がレモンジュースを飲んだ入れ物。
ふいに寂寥の念が湧いてきて、小夜子は瞬きをした。
寂しい。哀しい。
今日はそんなことばかりだ。
やるせない。
夜に、銀の月がかかっていた。
ひゅうっと、風が吹く。
———魚のお面の青年は、消えていた。
「……あれ?」
影も形もない。おかしいなと思って立ち尽くした時。小夜子は草と木に囲まれて、一人ぼっちで立ち尽くしていた。
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