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「えっと……いいの?」
「いいんだよ。泉は私だけのものなんかじゃないもん。……それに、」
そこで一度、少女は言葉を切った。色のない目が、まっすぐに小夜子のほうを向いた。
「一人ぼっちより、二人ぼっちのほうが、いいと思うんだ。」
だから、おいでよ。
そう付け加えるように言われて、小夜子は釣り込まれるように頷いた。
「……うん。ありがとう。」
浅い泉に足を踏み入れる。ひんやりと涼しい心地が肌をくすぐる。不思議と、靴や靴下が濡れる不快感はなかった。
じゃり。
じゃり。
昔は魚だったのだろう者たちの骨を踏んでしまうのはとても心苦しかったけれど、何しろそこら中に散らばっている。ある程度は仕方のないことだった。
見えない雨の降りしきる中、小夜子は魚の骨の島へと辿り着く。
「お邪魔します。」
「うん。」
鴉羽を生やした少女の隣へと、腰を下ろした。
そして、すぐに気づいた。彼女は、何かを手元で作っている。
ハンカチくらいの大きさの白布。その真ん中に丸い形の詰め物を置いて、包む。細い銀の糸できゅっと口を縛るようにして、仕上げにひっくり返す。
丸い頭にスカートをくっつけたような形の、小さな人形が出来上がった。
———てるてる坊主。
「気になる?」
「……うん。」
小夜子が、「それって、てるてる坊主だよね。」と聞くと、少女は頷いた。
「ここは、ずっと雨が降ってるからね。」
「そうなの?」
「そうそう。千年ぐらい、ずっと。飽き飽きしちゃうよね。」
さらりと語られた言葉には、まるで現実感がなかった。小夜子は戸惑ったように瞬きをする。
その間にも、少女は澱みのない手つきでてるてる坊主を作り続けていた。
「最近、私は雨女なのかなって、思い始めたんだよ。度を超えた、雨女。」
「……そうだね。」
「あなたもそう思う?」
「そう思うよ。」
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