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少女は唐突に、「私の名前はシーだよ。」と名乗った。小夜子も、「私は小夜子。」と名乗りを返した。
「よろしくね。」
「うん、よろしく。」
それから、しばらくシーは黙っていた。もちろん、ずっと彼女の手は忙しく動き続けていたけれど。
シーの作ったてるてる坊主の群れは、同じ一本の銀の糸で繋がれていて、果てしなく長い洗濯物の紐のようだった。端っこは泉に沈んでいるように見えるけれど、きっともっと長くどこかへ流れているのだろうと小夜子は想像した。
夜空にかかっていた月が、黒雲に隠される。ふっと地上に影が降りた。
ふいに、シーが口を開いた。
「ねえ、小夜子ちゃん。ここに降り積もってる骨が見える?」
「見えるよ。」
少し口をつぐんで、シーはゆっくりと考えを整理するような表情をした。しばらく経って、また話の続きが始まる。
「この中にはね、海から流れてきたものも多いんだけど……。でも、空から降ってきたものもあるんだよね。」
「空から?」
「うん。」
びっくりして、目を丸くする。小夜子は、シーが「あそこ。」と言って指さした方向を目で追った。
ボコボコとへこんだような、おかしな形の石がそこに合った。———違う、あれは石じゃない。
「そこのウサギちゃんなんか、月から落っこちてきて、そのまま化石になっちゃった。」
「うさぎちゃん……。」
「仲良くなりたかったんだけどね。」
「………。」
驚いて何も言えなくなっている小夜子に、シーは「残念。」と呟いてみせた。
「私のイヤリングね、これ、ウサギの耳みたいな形してるでしょ。」
「……確かに。言われてみれば、そうかも。」
「待雪草っていう、お花なんだよ。これを自慢したかったんだ。そうする前にあの子、死んじゃったけど。」
「……月から落っこちたんでしょ?仕方ないと思うよ。」
「そう思う?」
小夜子が頷くと、シーは「お気遣いありがとう。小夜子ちゃん。」と言って微笑んだ。
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