レモンの海に星が光った

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ゆっくりと、雲が流れてゆく。ただ、ひたすらにてるてる坊主を作る音と雨音だけが響いている。 月が再び顔を出して、シーの顔が白々と照らされた。 「シー?」 「ん、何かな。」 小夜子が声をかけると、シーはすぐに顔を上げた。 その動作がとても自然で、小夜子もすっと心地よく会話ができる、と感じた。 小夜子は自分の胸の中で考えたことを、シーに語ることにした。 「あの……ここにあるものの中に、海から流れてきたのもあるって言った?」 「言ったよ。」 シーは、淡々と指をさして説明を始めた。 「ほら。そこに変な形の骨があるでしょ。タコの吸盤みたいな丸い粒々がくっついてるのは、それ、病気になった赤ちゃん鯨の背骨ね。……あとは、そこの船の操舵の器具とかは、わかりやすいかな。他にも結構あるし……どうしたの?何か気になるものでも見つけた?」 「……ううん。」 小夜子は、迷うように言葉を続けた。 「ただ……ここ、泉だよね。」 「うん。そうだね。」 「海と繋がっているように見えなくて。それが不思議だなって思ったんだよ。」 「そっか。」 シーは、くいっと眉を上げるような仕草をした。 「でも、見た目に惑わされちゃいけない。ここは海と、一番近いところだから。」 「………。」 よく、わからない。 わからないなりに、深い味わいのある言葉だなあ、と小夜子は思った。 ざわざわと、どこかで木々の擦れ合う音が聞こえる。 ふいに、小夜子は何かが焼ける匂いを感じた。そして、パチパチと爆ぜる暖かな薪の音も……誰かが焚き火でもしているだろうか?ふっと目を上げると、案の定木々の隙間に赤く揺らめく灯りが見える。 よく見ようとして目を凝らした、その時だった。 とんでもなく奇妙なものを見つけてしまった。 小夜子は思わず、息を呑んだ。 ———タコと菜の花が組み合わさったような、異形の生き物が火に当たっている。 「……え。」
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