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辿り着いた先では、異形がお婆さんと、何か会話をしているようだった。
小夜子は、とりあえず手近な薮の陰に隠れた。
『———。』
『——。—————。』
少しだけ距離がある。彼らはボソボソとくぐもった声で話しているので、ここからだと内容がよく聞こえない。
その時小夜子は、異形の手元の動きに気がついた。じっと目を凝らしてみると、異形が忙しく手を動かし、何かを紡ぐような動作を繰り返しているのがわかった。
———何をしてるんだろう?
よく見ると、数珠を繋げている。黒く磨かれた玉を、一粒一粒、丁寧に銀の糸へ通している。
とてつもない長さに伸びた数珠つなぎは、シーのてるてる坊主を思い起こさせる。それは延々と伸びたコードのように、滅茶苦茶に絡まり合いながら木々の向こう側の闇へと消えていっている。
ふいに、視線が手前に引き戻される。
お婆さんが、地面を俯いて泣いていた。
彼女の顔に浮かぶ……まるで絶望したような、空っぽの感情に、小夜子の心が揺り動かされた。
いけない、と思った。
何がいけないのかはわからないけれど、とにかくゾッとしたのだ。
『今すぐにお婆さんに駆け寄って肩を揺すぶらなければならない』そんな論理も根拠もない危機感が燃え上がり、全力で警鐘を鳴らしている。小夜子は弾かれたように、隠れ場所から立ち上がった。
しかし、まさに駆け出そうとした、その瞬間だった。
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