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色々と前兆はあった、と思う。
なんだか世界が黒く沈んでいるような。
たとえば鴉がたくさんいるように感じる、とか。みんなの影が黒く伸びて見える、とか。夜空に咲いた花火も、そんなわけないのに白と黒のモノトーンっぽくて。
お祭りに来たはずなのに、あれ、おかしいな。つまんないなって。
そんな時は、たいてい寂しいことが起こる。
小夜子の敏感な心が、そういう未来を直観している。
外れたことは、ない。
…だから。
「———ごめんね。」
そんな顔をしないでほしい、と思った。ミドリくんは、十分に努力した。小夜子はそれを、一番よく知っている。
「ミドリくんは悪くない。謝らないでいいんだよ。」
「でも…」
「ミドリくんはサボテンで、小夜子は星。———真っ赤に熱い地面と、黒く静かな宇宙……もともと住む場所がうんと遠くに離れてたんだから、どうやったって寄り添えなかった。それだけだよ。」
言いながら、小夜子の目にじわりと涙が浮かんだ。
忘れたくても忘れられない、思い出の数々。
あぶくが湧くように浮かび上がってくる。
楽しくて、眩しくて。路傍の雑草が、いきなり温室の苺と出会ってメリーゴーランドで踊り狂って遊んだみたいな。それぐらい、信じられないほどに新鮮な日々だった。
「……元はと言えば、僕が告白したのに。……とかさ、そういう点では怒らないの?」
「怒るわけないよ。」
「小夜子ちゃんはすごいね。」
「うん。そうだよ、私はすごい。でもね、ミドリくんも私と同じくらいすごいんだよ。」
「……。」
ミドリくんとの出会いは、アルバイトのお弁当屋だった。
すでに社会人のミドリくんと、大学生の小夜子。不思議と気が合って、ついに告白までされてしまったのだ。
びっくりした。けれど、嬉しかった。ミドリくんは小夜子より年上だったけれど、とても丁寧に接してくれた。
……付き合う内に、彼の職業がわかった。
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