レモンの海に星が光った

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♢ 色々と前兆はあった、と思う。 なんだか世界が黒く沈んでいるような。 たとえば鴉がたくさんいるように感じる、とか。みんなの影が黒く伸びて見える、とか。夜空に咲いた花火も、そんなわけないのに白と黒のモノトーンっぽくて。 お祭りに来たはずなのに、あれ、おかしいな。つまんないなって。 そんな時は、たいてい寂しいことが起こる。 小夜子の敏感な心が、そういう未来を直観している。 外れたことは、ない。 …だから。 「———ごめんね。」 そんな顔をしないでほしい、と思った。ミドリくんは、十分に努力した。小夜子はそれを、一番よく知っている。 「ミドリくんは悪くない。謝らないでいいんだよ。」 「でも…」 「ミドリくんはサボテンで、小夜子は星。———真っ赤に熱い地面と、黒く静かな宇宙……もともと住む場所がうんと遠くに離れてたんだから、どうやったって寄り添えなかった。それだけだよ。」 言いながら、小夜子の目にじわりと涙が浮かんだ。 忘れたくても忘れられない、思い出の数々。 あぶくが湧くように浮かび上がってくる。 楽しくて、眩しくて。路傍の雑草が、いきなり温室の苺と出会ってメリーゴーランドで踊り狂って遊んだみたいな。それぐらい、信じられないほどに新鮮な日々だった。 「……元はと言えば、僕が告白したのに。……とかさ、そういう点では怒らないの?」 「怒るわけないよ。」 「小夜子ちゃんはすごいね。」 「うん。そうだよ、私はすごい。でもね、ミドリくんも私と同じくらいすごいんだよ。」 「……。」 ミドリくんとの出会いは、アルバイトのお弁当屋だった。 すでに社会人のミドリくんと、大学生の小夜子。不思議と気が合って、ついに告白までされてしまったのだ。 びっくりした。けれど、嬉しかった。ミドリくんは小夜子より年上だったけれど、とても丁寧に接してくれた。 ……付き合う内に、彼の職業がわかった。
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