レモンの海に星が光った

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「ミドリくん。」 「……ん?」 「こんなこと言うの、変かもしれないけど。ずっと、ずっと。応援してる。困った時は連絡してね。」 「……小夜子ちゃんこそ。就活もまだなんでしょ。」 「確かに。そうだった。」 「………。」 「………。」 夜風が吹く。 夏祭りの喧騒が遠くに響いているけれど、丸きり別世界のようだった。 濃紺のワンピースに、端っこだけを星の銀色に染めた黒髪を肩に届かせる少女。 黄緑のパーカーを羽織り、鮮やかな緑色の植物園みたいに染めた短髪を晒す少年。 ……河原で手でも繋いで花火を眺めているなら、きっと美しい絵になっただろう。 でも、ここは小さな路地裏。 わざわざ人目につかないように、二人で暗がりへと入った。川のそばでのお祭りは賑やかで人が多く、大事な話の邪魔をされそうだったから。 ミドリくんは今、きっと、とても辛気臭い顔をしている。慰めたいけれど、もう、小夜子にそれはできない。 「今まで、ありがとう。」 「……あ。」 「さようなら。」 一度お辞儀をして、くるりと踵を返す。 あっけない。 何ヶ月もの積み重ねが、崩れ去る一瞬。 なんて脆くて寂しい世界。 でも。ためらったら終わりだ、泥沼に嵌まると感じたから。小夜子はせめて切れよく最後を締めた。 涙が止まらない。 …ぽったり、ぽったろ……ぽったり、ぽったろ。 あふれて顎をつたう水の玉の群れは、流れるに任せておきたかった。拭わずに放っておくと、地面に黒い染みが増えてゆく。 ゆっくりと足を動かした。隣を小さな竹林が流れてゆく。青い竹、一年中枯れない、水々しい竹の群れ。 なぜだろう。うらやましい。竹が、うらやましい。 そう思った瞬間、涙が滝のようにあふれ出した。
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