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グラスに注がれたレモンジュースは、まるで蜂蜜かと見まごうほどの濃い金色だった。キラキラと月明かりを反射する琥珀色。これは本当にレモンなのかと疑いたくなるものの、凄烈とも言えるほどの強い柑橘の香りが、その正体を証明していた。
じっとグラスを見つめる小夜子の表情から、何かを読み取ったのだろうか。青年が、静かに微笑んだような気配があった。
「綺麗でしょう。」
「はい……こんなの、初めて見ました。」
「大丈夫。これは僕の実家で使っていた調味料の応用です。あやしい添加物とかは入っていませんよ。」
「なるほど。」
青年の言葉がどこまで本当かは、わからない。
けれど、とても自然に近い色と香りだということだけは……小夜子の獣じみた直感から、確かに窺い知れた。人工調味料ではないというのは、きっと嘘ではないのだろう。
すっと口をつける。思ったよりもするりと液体は滑っていった。
ただ、涙が出るほど酸っぱかった。それだけ。
———おいしい。
小夜子は満足した。喉を雪解け水が撫でていったように、後味のさっぱり涼やかなジュースだった。香りは強烈だけれど、すっと自然に尾を引くように消えていく。いつまでもダラダラ居残って鼻を苦しめない。
思わず笑顔になった。
「おいしかったです。」
そう言うと、青年も嬉しそうにお辞儀を返した。
酸っぱさの余韻が、わずかに舌に残っている。ピリピリした爽快な感覚は、一生忘れないだろうと思った。
……今日、失恋したという絶対的な出来事とともに。
また滲みかけた涙を、目を閉じて深呼吸することで誤魔化す。
今度の涙はすぐに止まった。
よかった、と思う。だんだん立ち直ってきたのかもしれない。
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