第1章【1】

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 夏休みに入ると、ますますバイトのシフトが増えて、翔平と一緒にいる時間が多くなった。 「修介ー。今日給料日だろ? パーっと飲みに行こうぜ!」 「パーっと? 行っちゃう?」 「……イッちゃおう?」 「バカ! じゃあ、終わったら待ってるからな」 「ほーい」  翔平とバイト終わりにご飯を食べに行ったり、俺の家に泊まりに来たりする事も多くなった。  そろそろ、翔平にも言っておこうかな。  そう思えていたから、今日カミングアウトする事にした。  きっと、驚きのあまり言葉を失うんだろうけど。  俺たちはバイトを終えて、その足で近くのビルにの中にある飲み屋に入った。  店内は薄暗く、個室もあるから気に入っている。値段が少々高めなのがネックだけど。  ガヤガヤと賑やかな声が店内に響く中、個室に入った俺たちはお互いビールを頼んで乾杯をした。 「はぁ~! バイト上がりのビールは最高っすねぇ!」 「ふふっ、そやねぇ」  お通しに箸をつけながら、こっそり翔平の顔を覗き込んだ。  それに気付いた翔平はフニャッと顔を崩した。 「ん、何? なんで見てんの?」 「あっ、別に……」  (いきなり言うのも変だと思うけど、ズルズル引き伸ばしても言いづらくなってしまうんよなぁ) 「……あ、翔平、彼女元気?」  つい話題を逸らしてしまう。翔平は目を細めてニヤニヤし出した。 「元気だよ~。超可愛いよ~。最高~」  翔平の彼女への溺愛ぶりは前からだ。  初エッチしたというのを、初対面の俺にいきなり言うか? 普通。 「んで、修介は? 彼女出来た?」 「えっ?! あ……いや……」 「なんで? こっち来てから作って無いんでしょー? お前めっちゃモテそうじゃん。綺麗な顔してるし、その関西弁でなんとかなんないの?」 「なんとかって……」  言うなら今しか無いと思った。  俺は手に持っていたグラスをテーブルの上に置くと、正座をして体勢を整えた。 「あ、あんなぁ翔平! 俺、言っておきたい事あんねんけど!」 「うん、何ー?」  翔平は呑気に枝豆の皮をむいて中身を出していた。 「俺、実は男が好きやねん!」  それを聞いた瞬間、翔平の手先がピタッと止まった。  俺は手に汗を握る。  やっぱ、引いたよね。  でも翔平はパッと顔を上げて素っ頓狂な声を出した。 「ヘェー! それで?」  俺はズッコケそうになった。  その間抜けな返事。どうにかならないものか。 「それで? じゃあらへんよ! 意味分かってる?」 「え? 意味? 分かるけど……好きな男がいるから、協力しろって事?」 「ち、違くてっ、俺は女やなくて男が好きなんだって話! ただそれだけ!」 「ああ、そゆ事。はいはい、了解でーす」  そう言うと再度枝豆を剥き始めた。  分かってるのか分かってないのか、その適当な返事をやめなさいと店長に怒られていたはずだ。 「……驚かへんの?」 「え? うん、別に。だって恋愛の形なんて自由じゃん。俺、今までいろんな人に会って来たけど、マジで十人十色だよ。俺がとやかく言うアレじゃ無いし、修介は修介だし」  大学でつるんでいる友達と同じ事を言われて、俺は不覚にも目頭が熱くなった。  こんなに良い友達と出会えて、本当に良かった。 「はっ! ちょっと待って!」  翔平は何かに気付いたように枝豆を放り投げた。 「ごめん。俺はさとみちゃん一筋だから。修介の気持ちには応えられな」 「大丈夫や。翔平の事はタイプじゃあらへん」 「あ、そうなの? 彼女元気?って聞いて来たから、嫉妬してんのかと思ってた」 「してへんしてへん」  俺の告白を聞いて、翔平が今まで会った中で一番動揺しなかった。  やっぱり翔平ってなんだか変な奴だけどいい奴。そう思った。
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