【6】

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「どうしたん瞬くん?! 早う顔上げてな!」  俺がそう促すと、瞬くんはしばらくしてから顔を上げて、沈痛な面持ちで語り始めた。 「俺、高校の頃何人も彼氏がおったやろ? 結局、卒業する頃には全員切れとったんよ。で、大学で出会った先輩に俺の恋愛癖を語ったら、お前はおかしい。そんなのただ人の気持ち弄んでるだけだ、結局は全員好きだったんじゃなくて、自分が好きだっただけだろって言われて。俺の事全否定して来たんよ……」  (先輩、ナイスやな) 「俺、面と向かってそんな事言われたの初めてで。正直めっちゃムカついたんやけど、なんだかどんどん惹かれてって。他の男の相手なんてしてられないくらい、その人だけと一緒にいたいって初めて思ったんよ。だから、修介の事本当の意味で好きや無かったのかもしれん。ホンマ、気持ち弄んでゴメンな」  瞬くんはまたテーブルに手をついて頭を下げた。  俺もまた慌てて両手を横に振る。 「もうええよ! そんな昔の話、もう気にしとらんから、顔上げて!」  瞬くんは、うん、と笑って頭を上げた。  俺もそんな瞬くんを見てフッと微笑んだ。  人ってやっぱり変わるものなんだな。  ちゃんと恋をすると、他に何も見えなくなる。  瞬くんもやっとこの気持ちを分かってくれて嬉しい。 「そんなに好きやったら、なんで別れてしもうたんよ? その先輩と」 「……二番目やったんよ。俺」 「……へ?」 「だーかーらー、他に本命がいたって事! その先輩はさ、何人も彼氏がいた俺の事おかしいって散々言うてたくせに、ノコノコと他に本命作っててん。なんとなく怪しいと思って問い詰めたら、俺の事はあっさりポイだぜ? 酷くね? しかも、相手は女やし」 「そうだったんや……」 「でも、酷いのは俺だよ。ショックやったけど、やっと気付いたんよ。自分だけを見てもらえんのって、こんなにも辛いもんなんやって。俺も同じ事やっとんたんやもんね。因果応報や」 「……」 「それで、修介の事思い出したんよ。あの時、二番とか三番とか平気で言うたよね? あの時の俺、ホンマ馬鹿やったから全然悪気なく言うてたけど、今更やけど、傷つけてごめんな……」  瞬くんはもう頭を下げる事は無かったけれど、目を伏せてカップの中の液体をじっと見つめていた。  高校の頃、傍若無人で強気な彼しか見たことが無かったのに、今目の前にいる彼は相反していて弱々しかった。  本当に先輩の事が大好きだったんだなと安易に予想が出来て、その報われないいたいけな気持ちは俺の今の恋愛とリンクするところがあって胸がズキンと痛くなる。 「もうええよ。あの時はお互い若かったし。なんやかんや楽しかったよ」  しんみりと言うと、瞬くんは視線をこちらに向けてニコリとした。 「なんや、修介ほんま大人っぽくなったな。こっちでいろいろと経験積んどるみたいやな」 「えっ? そ、そう?」 「後で詳しく聞かんとな、修介の事も。じゃあ、そろそろ行く?」 「あっうん。そやな」  俺たちは残りの飲み物を飲み干すと、伝票を手にレジへ向かった。  瞬くんは、マンハッタンの黒のバックパックとA4サイズの小さなボストンバック一つだけという少量の荷物を持って外へ出た。  とても二泊するような荷物の量では無いから、茶化しながらアパートへ向かった。
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