154人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みに入ると、ますますバイトのシフトが増えて、翔平と一緒にいる時間が多くなった。
「修介ー。今日給料日だろ? パーっと飲みに行こうぜ!」
「パーっと? 行っちゃう?」
「……イッちゃおう?」
「バカ! じゃあ、終わったら待ってるからな」
「ほーい」
翔平とバイト終わりにご飯を食べに行ったり、俺の家に泊まりに来たりする事も多くなった。
そろそろ、翔平にも言っておこうかな。
そう思えていたから、今日カミングアウトする事にした。
きっと、驚きのあまり言葉を失うんだろうけど。
俺たちはバイトを終えて、その足で近くのビルにの中にある飲み屋に入った。
店内は薄暗く、個室もあるから気に入っている。値段が少々高めなのがネックだけど。
ガヤガヤと賑やかな声が店内に響く中、個室に入った俺たちはお互いビールを頼んで乾杯をした。
「はぁ~! バイト上がりのビールは最高っすねぇ!」
「ふふっ、そやねぇ」
お通しに箸をつけながら、こっそり翔平の顔を覗き込んだ。
それに気付いた翔平はフニャッと顔を崩した。
「ん、何? なんで見てんの?」
「あっ、別に……」
(いきなり言うのも変だと思うけど、ズルズル引き伸ばしても言いづらくなってしまうんよなぁ)
「……あ、翔平、彼女元気?」
つい話題を逸らしてしまう。翔平は目を細めてニヤニヤし出した。
「元気だよ~。超可愛いよ~。最高~」
翔平の彼女への溺愛ぶりは前からだ。
初エッチしたというのを、初対面の俺にいきなり言うか? 普通。
「んで、修介は? 彼女出来た?」
「えっ?! あ……いや……」
「なんで? こっち来てから作って無いんでしょー? お前めっちゃモテそうじゃん。綺麗な顔してるし、その関西弁でなんとかなんないの?」
「なんとかって……」
言うなら今しか無いと思った。
俺は手に持っていたグラスをテーブルの上に置くと、正座をして体勢を整えた。
「あ、あんなぁ翔平! 俺、言っておきたい事あんねんけど!」
「うん、何ー?」
翔平は呑気に枝豆の皮をむいて中身を出していた。
「俺、実は男が好きやねん!」
それを聞いた瞬間、翔平の手先がピタッと止まった。
俺は手に汗を握る。
やっぱ、引いたよね。
でも翔平はパッと顔を上げて素っ頓狂な声を出した。
「ヘェー! それで?」
俺はズッコケそうになった。
その間抜けな返事。どうにかならないものか。
「それで? じゃあらへんよ! 意味分かってる?」
「え? 意味? 分かるけど……好きな男がいるから、協力しろって事?」
「ち、違くてっ、俺は女やなくて男が好きなんだって話! ただそれだけ!」
「ああ、そゆ事。はいはい、了解でーす」
そう言うと再度枝豆を剥き始めた。
分かってるのか分かってないのか、その適当な返事をやめなさいと店長に怒られていたはずだ。
「……驚かへんの?」
「え? うん、別に。だって恋愛の形なんて自由じゃん。俺、今までいろんな人に会って来たけど、マジで十人十色だよ。俺がとやかく言うアレじゃ無いし、修介は修介だし」
大学でつるんでいる友達と同じ事を言われて、俺は不覚にも目頭が熱くなった。
こんなに良い友達と出会えて、本当に良かった。
「はっ! ちょっと待って!」
翔平は何かに気付いたように枝豆を放り投げた。
「ごめん。俺はさとみちゃん一筋だから。修介の気持ちには応えられな」
「大丈夫や。翔平の事はタイプじゃあらへん」
「あ、そうなの? 彼女元気?って聞いて来たから、嫉妬してんのかと思ってた」
「してへんしてへん」
俺の告白を聞いて、翔平が今まで会った中で一番動揺しなかった。
やっぱり翔平ってなんだか変な奴だけどいい奴。そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!