第1章【1】

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 ──藤澤 景。  その名前は知っている。  今をときめく、人気若手俳優だ。  若いのに演技力が高く、甘さとワイルドさを兼ね備えたそのルックスは、老若男女問わず人気がある。  CMや映画に引っ張りだこで、今年ブレイク間違い無しの俳優で、注目度No. 1だと何かで目にした事がある。  芸能人なんて、そりゃあモテまくってるだろう。  チヤホヤされて、キャーキャー言われて、何もしていなくても勝手に人が寄ってくる。  そんな人こそ、遊んでそう。  ファンに手を出したり、アイドルと合コンしたりなんて話、ネットにわんさか出てるし。 「あぁ、翔平ありがと。確かにイケメンだし性格も良さそうやな。帰ったらじっくり彼の事調べてみるよ……」 「会ってみたい?」 「ん? まぁ、いつかは会ってみたいかなぁ?」 「じゃあ会わしてやるよ。俺、あいつと幼馴染だから」  言われてる意味がよく判らなかった。  あの藤澤 景と翔平が幼馴染? 「ヘェ~、スゴイデスネ!」 「あ、お前信じてねーだろ?! 本当だからな! あいつと幼稚園から中学まで一緒だったんだぜ? で、中学の時一緒に原宿歩いてて、景がスカウトされて、そのまま芸能界入り。スゲーんだよあいつ。ガキの頃からよくイケメンだって言われてたけど、まさかテレビに出るようになっちゃうなんてさ! 俺がビックリだよー!」  自信満々にここまで言われてみると、翔平の言う事が嘘だとは思わなくなった。 「え、え……ホンマに、幼馴染なんか?」 「本当だって言ってんだろ? ちょうど良かった。今度、景こっちに帰ってくるんだよ。その時飲もうって約束してたから、お前も来いよ。俺の新しい友達って事で、修介の事、景にも紹介しておきたいし」 「えぇー? 俺が男が好きっていうの、藤澤 景に言うわけ?」 「言わねーよ。俺嬉しいんだ。修介みたいに信頼できて、こうやって気兼ねなく話できる友達が出来て。ただ景に報告したいだけ。だからお前も来いよ。イケメンだけど真面目で誠実な奴、見てみたいだろ?」 「……うん、まぁ」  何気なく嬉しい事を笑顔で無邪気に言ってくれた事に照れてしまって、咳払いをして口元を手で押さえた。  藤澤 景に会えるなんて全く信じられないけど、それよりも今は、翔平が俺の事をそんな風に思っていてくれたなんてと、素直に言ってくれた言葉が嬉しくて心が震えた。 「あ、でも今あいつモデルと付き合ってるから、好きにはなんなよ?」 「はぁ? ならへんならへん。芸能人やろ? そんな雲の上の存在の人なんて、本気で好きになる訳ないやんか」  (芸能人なんてお金持っててチャラそうやしな。この世で一番好きにならない部類やし) 「よし! じゃあ日にち決まったら連絡すっから、絶対来いよ!」  翔平は上機嫌になって、俺ともう一度乾杯をして、残りの液体を飲み干した。  今日のこの出来事が、後々俺の人生を大きく変える事となる。
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