第1章【1】

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 翔平から飲みの誘いの連絡が来たのは、まだまだ猛暑が続いていた九月の初めの土曜だった。  藤澤 景もその場に来るらしい。  まだ俺は半信半疑だった。  こんな変哲も無い街に、あんなスターが本当にやってくるのだろうか。  夢のような話だった。  俺は芸能人なんて会った事も無いから、いざ会ったらどんな風になるんだろう。  藤澤 景の事は正直特別好きだという訳ではない。数多くいるイケメン芸能人の中の一人っていうだけで。  (会うって事は、もしかしたらちょっとでも話せるかもしれんって事だよね……? 地元帰った時にみんなに自慢出来るかも知れん!)  ちょっとだけ、その日を心待ちにしていた。  * * *  そして当日。  やってきたのは、ひっそりと裏道に佇む一軒の飲み屋。  芸能人が来るのだから、もっと洒落た店で飲むのかと勝手に思っていたけど、外に出ている看板は古く錆びていて、昔から夫婦だけで経営しているような、こぢんまりとした極普通の小さな居酒屋だった。  恐る恐る引き戸を開けた瞬間、俺はギョッとした。 「あ! 修介ー!」  六人がけの席に座っている翔平にすぐに手招きされて、よく状況が把握出来ずに翔平の隣に腰を降ろした。  店内はすでに十名ほどが集まって、皆久しぶりなのか話に花を咲かせていた。誰もが初めて見る顔ぶれだった。 「みんな~、これ、修介!」  翔平は俺の頭をポンポン叩きながら、周りの人たちにざっくりと挨拶する。 「ああ、君が修介くんか」 「いつも翔平から聞いてるよ」 「よろしくね」  そんな声がチラホラ聞こえてくる。  頭を下げながら何人かと挨拶を交わして、一段落して翔平の隣に戻ってきた俺は、翔平の腕を引き寄せて耳元で囁いた。 「なんやねん、今日こんなにおるなんて聞いてへんで? みんな友達みたいやし……なんか俺だけアウェイじゃない?」 「え? だいじょーぶっ! みんな、俺の小・中学の同級生とか、先輩だから!」 「いや、だからそれがアウェイじゃないかって聞いたんやけど! いくら俺に会わせたいからって、なんでそんなとこに俺だけ呼んだんよ?」  昔からの馴染みの顔同士で話したい事も沢山あるだろうに、無関係な俺がいきなり入ってきて、みんな変に思うだろう。  そう思っていると翔平は腕を組んで大きく笑った。 「だから言ったじゃん。景に紹介したいって。それに修介だったら信用できるし」 「信用って?」 「前までは、景が飲みとかに来る時、みんなに会わせてやったら喜ぶと思って、俺勝手にいろんな友達呼んでたんだ。でも、そいつら景に会えた途端、馴れ馴れしくしたり、急に友達面で。一緒に撮った写真をSNSに勝手にあげたりしてさ。景もいい気分じゃなかったみたいで。反省して、それからはもう俺と景が信用できる奴しか呼んでない。修介の事景に話してあるし、呼んでも大丈夫だなって思ったから」  素直に嬉しかった。翔平しか知り合いがいないのは心細いし、何話せばいいのか分からないけど、こんな友達を持てた事を誇りに思う。景に俺の事を話してくれていた事も嬉しい。 「そうなんや……ありがと……」  翔平はヘヘッと笑うと、俺の分のビールを注文してくれた。  テーブル席にそれが運ばれてきたと同時に、翔平が自分のグラスを持ってスクッと立ち上がる。 「景はちょっと遅れて来るそうでーす! 仕事してる奴らも今こっちに向かってるみたいだから、先に乾杯しちゃおうか!」  翔平が乾杯の音頭を取ると、グラスが重なり合う音が店内に響き渡る。  俺も同じテーブル席に座る人達とグラスを合わせて飲み始めた。
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