第1章【1】

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「まぁ立ち話もなんですから、も一回乾杯といきましょうか!」  翔平はそう言って何人かを席に座らせた後、景の耳元に唇を寄せて、俺の方を親指で指差した。  なんとなく、俺の事を言ってくれてるんだろうと分かった。  次の瞬間、ニコリと微笑む景と目が合った。  心臓が止まったかと思った。  その日本人離れしたような、綺麗すぎる顔立ち。その大きな瞳が、俺を見て細まった。  あんな優しい顔するんだ……と意外だった。テレビドラマでは、あまり笑わない、クールな役が多かった気がするけど。  その真っ直ぐな眼差しに耐えられず、俺は唇をぎゅっと一文字に結ぶと、恥ずかしさのあまりすぐに視線を逸らしてしまった。  翔平に促されて、景は俺の目の前の席に座った。  何か話すかと思ったけれど、俺の隣に座る翔平の方を向いて、飲み物はどれにしようかとか、どれが美味しいのかなどメニュー表を開きながら訊いていた。  景の長い指がメニュー表の上を行き来するたびに、緊張した。  (動いとるっ! 目の前で、藤澤 景が動いとるっ!)  景が頼むのかと思いきや、翔平が店員を呼んで、景が翔平に伝えて、それを翔平が頼むという二度手間をしていた。  翔平、いつもこれやってるのかな。そう思うとフッと笑いそうになった。  一通り頼み終えると、翔平がいきなり俺の肩を叩いた。 「で、こいつが修介! 宜しくなっ!」  なんだかふざけた言い方で翔平に紹介されてしまったな、と思ったけれど、景はこちらを向いて笑った。 「……翔平から聞いてるよ。すごく、気の合ういい友達がいるんだって」  景の声は、落ち着いた穏やかな低い声だった。  なんだか凄く心地よい。  話しかけてくれた事か、それとも翔平が俺の事をいい友達と言ってくれていた事か、どちらの方か分からないけどやっぱり恥ずかしくなって、自分でも顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。 「あ、いえ……」  また少し頭を下げて、目を合わせられないでいると。 「こいつ、いつも変な友達連れてくるけど、最近まともになってくれたみたいで良かったよ。馬鹿の相手するのは大変だけど、これからもこいつと仲良くしてやって?」  景にそう言われて、顔を上げて何かを言おうかと思ったけど、それよりも先に翔平が口を出した。 「ちょっと、ひどくない? 俺がいつまともじゃなかったわけ? そんな事言ってると、朝まで飲ませちゃうからね!」 「いいよ別に。明日休みだし」 「……いや、やめとこう! 俺が先に潰れる!」  頼んでいた飲み物が来ると、翔平は立ち上がり、乾杯の音頭を取った。 「じゃあみなさん、景さんも来た事ですし、改めまして、カンパーイ!!」  俺は何度目かの乾杯で、初めて景とグラスを合わせた。
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