第1章【1】

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 前言撤回。  やっぱりこのイケメンの事は別に何も知らなくてもいい。  芸能人だから遊んでそうっていうのは思っていたけど、やっぱり期待は裏切らないんだなって事がよく分かった。  (翔平はこの人の事、真面目で誠実でって言うてたけど、こんな馴れ馴れしくしてくるなんて、相当遊んでるに決まっとる!!)  でも、こんなに格好いい人に実際に会えるなんて、人生で一回あるかないかだし、今日は来てよかったのかな。  そんな事を思っていたら、タイミング良く翔平が戻ってきた。  そろそろ終電の時間だからと、そのままお開きとなった。  皆帰り支度を始めて、二次会へ行く者は準備をしていた。  翔平は俺の気付かない間に相当飲んでいたみたいで、今まで見た事がないくらいに酔っ払っていた。俺はフラフラになっている翔平の手を引いて、無理矢理歩かせた。 「えー? もう帰んの~? やだ~」 「何してんねん翔平! お酒弱いんやから、飲みすぎたらあかんやろ!」 「だってー、みんなに会えたの久々で嬉しいんだもーん」 「ぎゃっ!」  翔平は俺の肩に腕を回して羽交い締めにしてくる。  俺と翔平は頭一つ分違うから、容易に翔平の腕の中に包み込まれてしまう。 「もう、離せや酔っ払い!」  えへへ~、と翔平は顔を近づけてしばらく離さなかった。  酔うとくっつきたくなるみたいで、いつもの事だからそのままにしておいた。  頬が押しつぶされてタコの口になっていると、なんだか視線を感じて、フッと顔を上げた。  景が、店の前に設置されたベンチに座って煙草を吸いながら、俺の事をじっと見つめていた。  翔平は千鳥足になって、俺は揺さぶられてしまうけれど、その景の視線から目が離せないでいた。  (あぁ、もしかして、アホみたいやなと思ってるんやろか……こうやって改めて見ると、ホンマにカッコええな……)  そう思ってると、景は煙草の火を消して、こちらに歩み寄って来た。 「修介。連絡先交換しようよ?」  俺は未だに翔平に抱きつかれたままだったけど、まさかそんな事を言われるだなんて微塵も思ってなかったから、すぐに反応出来なかった。 「えっ? あ、もちろん!」  俺たちはスマホを出して、お互いの番号を交換した。藤澤 景という名前と番号が俺のスマホの画面に表示されると、なんだか胸が高鳴った。  凄い。俺、芸能人と番号交換してしまった。 「ありがとう。また会いたいな。今度ゆっくり飲もうよ」  景はスマホをバックに仕舞うと、二次会へ行く友人達に連れられて行ってしまった。  ファンサービスするみたいに、手を振りながら。 「あ、うん。じゃあまた」  社交辞令だろうな。そう思いながらも、俺も笑顔で手を振り返した。  景達がタクシーに乗り込むのを見届けると、途端に辺りは静かになった。  さて。  俺はこのヘラヘラした酔っ払いを自分の家まで持ち帰らなければ。 「ほら。翔平。俺んち泊まってええから、家まで頑張って歩ける?」 「えっ! 泊まっていいの? いえ~い!」  翔平は泊まりだと聞くと、俺の体からパッと離れてスキップをし始める。  急にテンションが上がっている。謎だ。 「ねぇ、景と喋った? マジイケメンでしょ?」  翔平は赤い顔でまた俺の顔を覗き込む。  俺は景の手のひらを思い出した。  頭に置かれた景の手。  大きくて、暖かかった。 「そりゃあな。今まで会った中で一番カッコええで。でもな、いきなり俺の頭撫でてきたんやで? さすがモテる男は違うわ。あんなんするなんて、遊び慣れてる証拠やわ」 「え? 別にいいじゃん頭撫でるくらい。修介チビだから撫でたくなったんじゃねぇの?」 「チビ言うなっ!」 「また景の休み取れたら、みんなで集まろうねぇ~」 「……うん。そやね」  景はなんで俺の連絡先なんか聞いて来たんだろう。  やっぱり好感度上げるために、いい顔見せたいのかな。  超絶忙しい彼から連絡なんて、あるわけないけど。 「コンビニで酒買ってこ~?」 「はっ?! まだ飲むんか?! あかん!」  まるで夢のような一日は終わった。
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