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前言撤回。
やっぱりこのイケメンの事は別に何も知らなくてもいい。
芸能人だから遊んでそうっていうのは思っていたけど、やっぱり期待は裏切らないんだなって事がよく分かった。
(翔平はこの人の事、真面目で誠実でって言うてたけど、こんな馴れ馴れしくしてくるなんて、相当遊んでるに決まっとる!!)
でも、こんなに格好いい人に実際に会えるなんて、人生で一回あるかないかだし、今日は来てよかったのかな。
そんな事を思っていたら、タイミング良く翔平が戻ってきた。
そろそろ終電の時間だからと、そのままお開きとなった。
皆帰り支度を始めて、二次会へ行く者は準備をしていた。
翔平は俺の気付かない間に相当飲んでいたみたいで、今まで見た事がないくらいに酔っ払っていた。俺はフラフラになっている翔平の手を引いて、無理矢理歩かせた。
「えー? もう帰んの~? やだ~」
「何してんねん翔平! お酒弱いんやから、飲みすぎたらあかんやろ!」
「だってー、みんなに会えたの久々で嬉しいんだもーん」
「ぎゃっ!」
翔平は俺の肩に腕を回して羽交い締めにしてくる。
俺と翔平は頭一つ分違うから、容易に翔平の腕の中に包み込まれてしまう。
「もう、離せや酔っ払い!」
えへへ~、と翔平は顔を近づけてしばらく離さなかった。
酔うとくっつきたくなるみたいで、いつもの事だからそのままにしておいた。
頬が押しつぶされてタコの口になっていると、なんだか視線を感じて、フッと顔を上げた。
景が、店の前に設置されたベンチに座って煙草を吸いながら、俺の事をじっと見つめていた。
翔平は千鳥足になって、俺は揺さぶられてしまうけれど、その景の視線から目が離せないでいた。
(あぁ、もしかして、アホみたいやなと思ってるんやろか……こうやって改めて見ると、ホンマにカッコええな……)
そう思ってると、景は煙草の火を消して、こちらに歩み寄って来た。
「修介。連絡先交換しようよ?」
俺は未だに翔平に抱きつかれたままだったけど、まさかそんな事を言われるだなんて微塵も思ってなかったから、すぐに反応出来なかった。
「えっ? あ、もちろん!」
俺たちはスマホを出して、お互いの番号を交換した。藤澤 景という名前と番号が俺のスマホの画面に表示されると、なんだか胸が高鳴った。
凄い。俺、芸能人と番号交換してしまった。
「ありがとう。また会いたいな。今度ゆっくり飲もうよ」
景はスマホをバックに仕舞うと、二次会へ行く友人達に連れられて行ってしまった。
ファンサービスするみたいに、手を振りながら。
「あ、うん。じゃあまた」
社交辞令だろうな。そう思いながらも、俺も笑顔で手を振り返した。
景達がタクシーに乗り込むのを見届けると、途端に辺りは静かになった。
さて。
俺はこのヘラヘラした酔っ払いを自分の家まで持ち帰らなければ。
「ほら。翔平。俺んち泊まってええから、家まで頑張って歩ける?」
「えっ! 泊まっていいの? いえ~い!」
翔平は泊まりだと聞くと、俺の体からパッと離れてスキップをし始める。
急にテンションが上がっている。謎だ。
「ねぇ、景と喋った? マジイケメンでしょ?」
翔平は赤い顔でまた俺の顔を覗き込む。
俺は景の手のひらを思い出した。
頭に置かれた景の手。
大きくて、暖かかった。
「そりゃあな。今まで会った中で一番カッコええで。でもな、いきなり俺の頭撫でてきたんやで? さすがモテる男は違うわ。あんなんするなんて、遊び慣れてる証拠やわ」
「え? 別にいいじゃん頭撫でるくらい。修介チビだから撫でたくなったんじゃねぇの?」
「チビ言うなっ!」
「また景の休み取れたら、みんなで集まろうねぇ~」
「……うん。そやね」
景はなんで俺の連絡先なんか聞いて来たんだろう。
やっぱり好感度上げるために、いい顔見せたいのかな。
超絶忙しい彼から連絡なんて、あるわけないけど。
「コンビニで酒買ってこ~?」
「はっ?! まだ飲むんか?! あかん!」
まるで夢のような一日は終わった。
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