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あの飲み会の時と同じように、景は俺の頭を撫でながら髪を梳いて、毛先を指先で摘んだ。
(まっ、またや! この遊び人!)
また景の大きな掌が何度も行き来する。
唇をぐっと噛んで耐えていると、景は思わず吹き出して、綺麗に並んだ歯を見せて笑った。
「修介、似てるんだよね、実家で飼ってる犬に」
「はっ?」
「ポメラニアン。毛の色とか長さもちょうどこのくらいでさ。なんだか触りたくなっちゃう」
「ポッ?!」
だからこの間もこんな事をしていたのか。
確かに、犬みたいとか、タヌキ顔だよねなんてよく言われるけれど、まさかそんな小型犬に似てると言われるだなんて。
俺は咄嗟に体を捩ってその手から逃れた。
「もうっなんやねんっ! 人の事からかわんといてよっ!」
「あ、やっと出た、関西弁!」
景は俺に指を指しながら、目を見開かせて驚いていた。
俺はコロコロ変わるその表情に心がついていけない。
「え? やっと出た……って?」
「翔平と話してる時に聞いてて、なんかいいなぁと思ってたんだ。使ってくれたって事は、僕の事まぁまぁ信用してくれたって事だよね?」
そういえば、意識して使わなかった訳じゃないけど、さっきは自然と出ていた。
まだこの人の事は知らない事だらけだけど、これからいい友達になれるのかな。そんな気はした。
「……景って、イケメンやけどちょっと変わっとるよね?」
「多少変わってないと、芸能人なんて勤まらないよ」
「そうなん?」
クスクスと笑い合った。
景はその後、俺の地元の事や、大学での事を色々と訊いてきた。
翔平みたいに活発な人と話してても楽しいけど、景と話してるとなんだか凄く落ち着いた。
波長が合うのかもしれない。
たまに会話が途切れてシンとなる瞬間もあるけど、なんだかそれさえも楽しめる。
景と話しながらも、さっきから少し気になっていた事があった。
テーブルの上に置かれた彼のスマホが、何分か置きに振動を短く繰り返していた。
たぶん、メッセージが入っているのだろう。
もしかして、気を遣って見ないようにしてくれているのかな?
そう思って俺は切り出した。
「景、俺に構わんと、スマホ見てええよ? 仕事の連絡とかやないの?」
そう言うと、景は少し困ったように笑って、首を横に振った。
「ありがとう。大丈夫、仕事じゃないから」
それを聞いて俺はピンときた。
ニンマリとしながら景に問う。
「もしかして、南さん?」
景は少し驚いてから、申し訳無さそうに頷いた。
「ヘェ、愛されてるんやねぇ! そんなに連絡取り合ってるんや」
「そんな事ないよ。彼女心配性だから、僕が誰かと一緒に飲んだりしてると不安になるみたいで、いつもこうなんだ」
(まぁ確かに。こんなにイケメンじゃ、付き合ってる方も不安になるかもな。モテまくってるんやから)
「信用してよって言っても、あんまり信じてないみたいで。ある程度は放っておいてほしいんだけどね」
「でも、何も無かったら無かったで、寂しくなるんちゃうの? 愛されてる証拠やんか! 羨ましいでそんなん」
そうなのかな……と呟いて、景は残り少なくなった何杯目かのビールを飲み干して、グラスを置いた。
「修介の好きなタイプはどういう人?」
「えっ!」
いきなりの質問に素っ頓狂な声を上げてしまったら、景は声に出して笑った。
「修介って、よく聞き返すよね。えっ、とか、はっ、とか。面白いからいいけど」
そうやって聞き返す人は、実は自己評価が低くて自信がないからだとこの前知って、ますます自信を無くした。言い方を変えれば、自己防衛本能が相当強い人。
まぁ、単なる癖だっていう話もあるけど。
俺はむむ、と口を尖らせた。
実は男が好きだからイケメンの人、なんてとても言える訳ないから、適当に誤魔化した。
「真面目で、誠実で……顔が可愛い人」
「へぇ。修介もやっぱり顔で選ぶんだ?」
「やっぱりって、景も顔で選んだん?」
「そりゃあ、見た目から入っちゃうよ、正直。南なんて、この世にこんなに綺麗な女性がいるだなんてって思ったし」
南さんは超絶美人だから、納得がいって何度もウンウンと相槌を打った。
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